46.クデールフ
その次の週、メルトに会う前に私は文献を買うようキャサリンにお願いした。
対象は薬学、錬金術の本……その中に毒の専門書も紛れ込ませている。
ここ数週間で調べた内容から、読んでおいたほうがいいと思った文献だ。
その中でも本命はこの毒の専門書群。
他の書籍の参考文献に記載されているから、多少は期待できるはず。
国外の本もあるので、手に入るといいのだけれど。
「にゃ! 国内外の業者から最速で調達しますにゃ!」
「い、いえ……そこまで急がなくても大丈夫よ?」
「ソフィー様からのご依頼ですにゃ、やらせていただきますのにゃ!」
キャサリンは意気込んで文献リストを持って出ていった。
多くの本はそれから数日のうちに手に入った。
毒の本も何冊かある。さすが仕事が早い……!
「ありがとう、キャサリン」
「えへへ……ですにゃ」
なでなで。ふかふかの頭頂部を撫でる。
うーん、ずっとこうしていたい気分……。
と、他のメイドさんもにゃーにゃーと集まってくる。
「にゃー! あたしも撫でてくださいにゃ!」
「あたしも撫でて欲しいですにゃー!」
「はいはい、順番にふもふもしていきますから……!」
素晴らしい時間を過ごし、ゆっくりと本を読む。
離宮の庭もだいぶいい感じになってきたので、そこで優雅に読書だ。
読んでいるのは毒の専門書だけれど。
リディアルは北にあり、気候は寒冷。
それでも7月に入るとそこそこ暖かくなる。
半袖と日陰、冷たい飲み物でちょうどいいくらい。
ベリーの粒を入れたメロンジュースを飲みながら、ページをめくる。
(……やっぱり死熱毒の記述は少ないか)
死熱毒はいくつかの毒を混ぜて作られる、致命的な毒だ。
バジリスクの毒を元にして――コブラなんかの毒も入れる。
さらに調合難度も極めて高い。
個人的な見立てだと、超一流の錬金術師にしか作れない。
なので簡単に使われる毒ではなく、歴史的に見れば使用例はごくわずか。
特徴的な黒斑が出るにしても……である。
「原作ではバジリスクの毒じゃなくて、混ぜてあるサブの毒から解毒する方法をとったんだっけ……」
死熱毒の基本ベースはバジリスクだ。
でもそこから解毒しようとしても、決して上手く行かない。
バジリスクの毒を補助する、別の毒から解毒しないとダメなのだ。
そこに気付いたのが主人公のミラということになるんだけど……。
今、私の開いている【南方毒録】でも解毒不可と書かれている。
これは南方の国で書かれた毒の専門書、その翻訳本だ。
『死熱毒は万魔の毒師クデールフの傑作であり、決して逃れられぬ死を与える。クデールフは製法を口伝で弟子たちに伝え、さらに磨きをかけるよう命じた。
後年、クデールフは弟子たちに死熱毒を盛られ、死んだ。クデールフは苦しみながら解毒法を探したが、見つからなかった。
弟子たちはクデールフの命令を守ったのである。
しかしクデールフもまた、復讐を忘れなかった。
自分の弟子たちを死熱毒で殺し尽くしたのである。
こうして忌まわしい死熱毒の秘密は失われたかのように思われたが、歴史の陰にはいまだにクデールフの手が及ぶ。
ここから先は死熱毒によると思われる毒殺例を列挙していこう――』
これは死熱毒に関する、有名な逸話だ。
死熱毒を生み出した錬金術師クデールフは弟子たちに殺され、クデールフもまた弟子たちを死熱毒で殺した。
しかし同時に【南方毒録】では注釈もされている。
『死熱毒が使われたと思われる例を検討するに、このような逸話の大部分あるいは全てが嘘であろうと思われる。
バジリスクは極めて強大な魔物であり、その密猟は容易ではない。
恐らく国家に雇われた才能ある錬金術師が作り出した、というのが真相であろう。
対象の毒殺が完了すると、末端の錬金術師の運命は権力者の手に委ねられる。とはいえ多くの場合、決して解毒できない毒を生み出せる錬金術師を権力者は好まない。
クデールフの逸話のいくらかは、不運な錬金術師が辿ったであろう末路を暗示していると思われる。すなわち口封じである』
……ふむふむ。
黙々と読み進めていく。
『死熱毒は経口摂取が基本だが、特徴的な香辛料めいた味がするようだ。実際、そのために失敗した例がいくつも記録されている。
この死熱毒が南方の辛い料理、香辛料がふんだんに使われた料理に混ぜられてきたというのも無理からぬ話であろう。
そのため北方でこの死熱毒が使われた比率は非常に少ない――』
ん……?
この記述は初めてだ。
死熱毒が経口摂取なのは、そうだろうと思った。
でないと要人暗殺には不向きで、メルトに服毒させられない。
でも……味があるとは?
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