44.また次に
ヤバい。久し振りのアルコールが気持ち良すぎる。
その上おつまみも最上級の皇族ご用達。
さらに――。
「あー……南のほうで海マッシュルームの栽培ができるようになったと」
「噂ではね。アレが安定して入ってきたら色々なポーションが作りやすくなるんだけど」
「ですねー、明光ポーションやら発火ポーションやら……」
「一番はリディアルでも海マッシュルームの栽培ができるようになることだけどねぇ」
「水温が問題なくらいなら、今のリディアルの技術ならなんとかできるのでは?」
「……どこでやるつもり?」
「プールを作ればいいじゃないですか、プール」
「ぷーる……?」
「でーっかい大理石とか木材の箱を用意して、そこに水を入れるんです。そうすれば温度管理しやすいじゃないですか」
「リディアルだと聞いたことないけど……。うんん、浴場の応用か……」
錬金術トークが弾んでしまう。
ここまで錬金術の話ができてしまうのはメルトが初めてだ。
アズールの今の興味は飛行船で、どちらかというと工学に近しい。
錬金術も無縁ではないが、飛行船の大部分に私は携われない。
それに比べるとメルトの感性と興味は私にかなり近い。
海マッシュルームは様々なポーションの触媒として優秀な素材だけれど、温暖な海にしかなく、北方の国では常に不足している。
特に熱や光を発するポーション作成では、海マッシュルームの質が結果を左右してしまう……ので、安定的な供給は死活問題だ。
とか。錬金術に興味のない人が聞いたら2秒で寝てしまいそうな話題にもメルトはちゃんと喰いついてきてくれる。
自分の好きなことを喋り倒しながら飲む酒ほど美味いものはない。
こうしていい気分になって、気が付くともう夜中になっていた。
メルトの青白い顔が紅く染まっている。
見ていると首がふらふらと定まっていない。かなり酔っているようだ。
「……君、お酒強いね」
「そうですかね」
ボトルを半分飲んで、ちょうどいい感じだ。
正直、まだまだ飲める。あと2倍くらいは飲める。
とはいえ、おつまみのほうでお腹がいっぱいかもしれない。
酔いというよりは満腹感で眠気に手が届きそうではあった。
「僕も結構飲めるほうなんだけどな」
ボトルはすでにほとんど空だ。
多分、私が6割くらい飲んでメルトが4割かな。
お互いにかなりの酒豪なのは間違いない。
「まぁ、体質もありますからね。きっと」
「魔力の強さが酒の強さに関連するって噂……今までは眉唾派だったけれど、信じてしまいそうだよ」
可能性はありそうだった。
ボトルに残ったワインをグラスに空けて、ぐーっと飲み干す。
んむんむ、本当にいいワインだ。
「では、そろそろ解散にしますか」
「そうだね。僕はここで一眠りしてから帰るよ」
メルトがぐっと伸びをする。
「ふぁ……さすがに歩き回るのはダルい」
「私はこのまま戻りますね」
「気を付けてね」
ひらひらと手を振るメルト。
酔いが回っているせいか、声が甘くて動作も柔らかい。
だいぶ可愛い大学生っぽいな。
「あっ、次の【お仕事】はいつになりそうですか?」
「んー……とりあえずはこの殺虫ポーションを売った結果次第だ。2週間はかかるだろうから、良くて3週間とか先かなぁ」
「……それよりももうちょっと早く」
ずいっと私が身を乗り出す。次まで3週間だと間が空きすぎる。
そんなペースではメルトが死にかねない。
「でも、大したことはできないよ。お金は殺虫ポーションの材料費に使ったから。アレが売れないと、大掛かりなことは無理だってば」
「じゃあ、できることから。ポーションの作り方を教えることでも文献の整理でも。私にできることは何でもやりますので」
「随分と積極的だね……」
「意外とあなたが話せる人だと分かりましたので」
そう応じるとメルトがくっくと笑う。
「それは光栄だ。僕も君への印象がかなり変わった。……じゃあ、せっかくだし錬金術を教えてもらおうかな」
「ええ、喜んで」
「時間はまた1週間後で大丈夫かな?」
「問題ありません」
約束を取り交わし、私は工房を後にしようとする。
「では、また。おやすみなさいませ」
「おやすみなさい。楽しみにしているよ」
声を弾ませ、ベッドに横たわるメルト。
私もなんだか楽しみになってきた。
やはりかなり眠かったらしく、すぐにメルトは寝息を立てる。
それを見届け、私は魔法薬店から帰宅することにした。
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