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39.魂の奴婢の館

 それから1週間ほど。

 宮殿生活を満喫しながら慣れて、ついにメルトの指定した日がやってきた。


 ちょっと天気が悪く、ぽつぽつと雨が降っているけれど。

 でもこれは仕方ないか。


 巧妙に夕方から予定が入らないようにし、メイドを早く帰らせ……。

 執務室に籠る用意を万端に整える。


「今日はちょっと読書に集中したいから」


 そう言い残し、傘を持って執務室から抜け道へ。


 実はこの1週間、もう何度も帝都へは出かけていた。

 情報収集のため深夜に出かけもしたり。


(おかげで色々と仕入れられたけれど……)


 もう慣れた抜け道を早足で進み、帝都へと出る。

 帝都の人はお祭りの時よりもずっと少なく、活気も落ち着いていた。


 霧のような薄い雨が街路を濡らす。


 思ったよりも早く移動でき、宵闇通りの魔法店に向かう。

 あの時は店名を気にしていなかったが、看板には『魂の奴婢の館』とあった。


 ……メルトが名付けたのだとしたら、ブラックジョークもいいところだ。

 店に入ると髭の店主さんがひとりで店番をしている。


「お邪魔します……!」

「おおっ! 来てくれたか、話は聞いてるよ。どうぞ上へ」


 強面の顔を綻ばせ、カウンターを開けてくれる。

 他にお客さんはいないので、視線を気にせず2階へ向かう。


 階段を昇りながら、息を整える。

 

 今日だ。今日が大切だ。

 メルトとティリエとアズール。


 その繋がりを私は解き明かさないといけない。


 2階に上がると紺色のローブをまとったメルトが椅子に座っていた。

 どう見ても一般人には見えない気品さだけれど……。

 まぁ、あの店主以外訪れる人がいないからいいのか。


 先週とは違い、2階には錬金術関連のアレコレがどっさり置いてある。

 私を認めるとメルトが神妙な顔で言った。


「来てくれたね。早速、始めようか」

「……何を作るのでしょうか」

「死熱毒の治療薬だよ。当たり前だろう」


 メルトの声がしっとりと広がる。

 そこには焦りや熱意が全然ない――諦念しすぎてないだろうか。

 20歳くらいとは思えないけれど……。


「ふぅ……君は死熱毒の知識があるんだったよね。治療の経験は?」

「ありません。本で読んだだけです」

「ずいぶんとレアな毒にも知見があるんだね」

「本を読むのが趣味なので」


 メルトが軽くローブをはだけさせ、肩を露出させた。

 肩口に黒の魔力が這いまわっている。


「君の言う通り、これを放っておけば僕は死ぬだろう」


 ローブを戻したメルトが虚しい笑みをこぼす。


「この黒い斑点が広がると身体の痛みが増す。死期について、僕の調べた限りではわからなかったけれど――君には見当がついてるんだろう」

「おおよそ胴体全てが黒く変色すると死に至ります」


 前世の知識をそのままなぞる。

 ここの部分が違うと打つ手なしだけど、すがるしかない。


「なるほどね、だとすると時間はそれほど残ってないな」

「……暗殺未遂があったのは半年前だと聞きましたが」


 この1週間、私は何度も帝都へ来ている。

 その中には口の軽い人もいたし、古びた情報紙も手に入った。


 宮殿でタブーの話題でも、市井の口は塞げない。

 メルトが目を閉じて頷く。


「ああ、その時は背中にインク瓶をぶちまけたみたいな黒斑だったよ。大きさは――10イルメだったかな」


 イルメはこの世界の単位で、インチとほぼ同じだ。

 親指の付け根部分の長さが起源で約2.5センチになる。


 それが10イルメということは、25センチ?

 初めからかなり大きいような……。


 それだと黒の魔力が広がる速度が相当遅くないと、今メルトは生きていない。

 でも広がる速度が遅いと……。


 メルトの死因と死熱毒の関係はどうなってしまうの?

 やっぱり全てはアズールが……。


 私の思考にメルトの言葉が飛び込んでくる。


「今のペースで進むと、胴体部分まで覆われるのに約2年かな」

【お願い】

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