38.会談終わりて
ティリエの話を聞き、適当に頷いて。
2時間ほど話しただろうか。
時折、強烈に顔を出す人種差別。
そしてアズールへの対抗心、メルトへの期待……。
そういうのがなければ、まだ気の強い姑で済んだかもしれないが。
「今日は有意義な話をありがとう。あなたという人がわかった気がするわ」
「いえ、こちらこそ。まだ片付かない離宮に来て頂いて」
ティリエが優雅に席を立つ。
「最初は礼儀を弁えない子だと疑ったけれど、思ったよりも処世術ができているようね。長話をしてしまったわ」
妙な評価のされかたをしてしまった。これも精神年齢のなせる業だろうか。
うーん……前段の部分がなければ、素直に受け取れるのになぁ。
ティリエに心は許せない。
結局ティリエはケットシー族をはじめとする諸部族を排斥したい側だ。
私はキャサリンを大切な友人だと思っている。
彼女からは嘘偽りのない友愛を感じることができている。
作り物の笑顔を浮かべ、ティリエを見送る。
「では、また今度」
「そうね、あの人が戻ってくるとうるさいでしょうし。ごきげんよう」
こうしてティリエという皇太后の嵐は過ぎ去っていった。
終わるとどっと疲れ、貴賓室のソファーへ倒れ込む。
そこへすぐにキャサリンが入ってきた。
「お疲れ様でしたにゃ」
「ええ……はぁ、アズールが挨拶回りのルートからあの人を外すわけね」
これは言外にティリエを評したものだ。
アズールの判断は的確だったと言わざるを得ない。
「……キャサリン、あなたも大丈夫?」
「私どもは大丈夫ですにゃ」
私はティリエの態度にショックを受けた。
でも彼女たちにとっては慣れっこなのかもしれない。
とてもいいこととは言えない。
無性に目の前のキャサリンを抱きしめたくなった。
「抱きしめさせて」
「はいですにゃ……!」
私はそっと両腕を広げ、キャサリンを迎える。
ふかふかの身体。飛行船で触れ合った時と変わらない。
暖かくて安心できる。
「私は本当に気にしないで」
ティリエのやろうとしていることは、私からキャサリンを奪うことだ。
あの人がどう動くのであれ、それだけは阻止してやる。
私はそれを固く心に誓った。
そしてティリエが去って1時間後。
午後の早い時間にアズールが私の離宮にやってきた。
国内の視察先から戻ってきたらしい。
今度はきちんと離宮の庭でアズールを出迎える。
切り揃えられた芝生をふたりで並んで歩く。
「大げさですよ。込み入ったことは話していません」
「……ならいいけどね」
ちょっと不服そうではある。
いや、これは心配の裏返しか。
「陛下のご懸念は承知しております。正直、何度もお会いしたい人ではございませんが……しかし私が皇太后様から逃げているという風評もまた、好ましからざるものです」
「その通りではある。でもねぇ……あの人は、はぁ……」
アズールが首をこきりと鳴らして空を仰ぐ。
彼にとってもティリエは疲れる方なのだろう。
「ま、君がなんともないなら良かった」
「はい、大丈夫ですよ。あのぐらいではへこたれません」
心配してくれるのは素直に嬉しい。
私はそのままアズールのそばで少し甘えることにし――結局、アズールが夜の会議に行くまでずっと一緒にいたのだった。
【お願い】
お読みいただき、ありがとうございます!!
「面白かった!」「続きが気になる!」と思ってくれた方は、
『ブックマーク』や広告下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援していただければ、とても嬉しく思います!
皆様のブックマークと評価はモチベーションと今後の更新の励みになります!!!
何卒、よろしくお願いいたします!