37.思惑
これはどういう企みなんだろうか……?
私はティリエの放った言葉の意味を頭の中で回転させた。
普通に聞けば、メルトを後押しして欲しいということだ。
ティリエからしてみたら甥のメルトが可愛い、ということだろう。
それ自体は普通の家族愛にも思える……。
でも裏の意味では、メルトの処遇はアズールの決めることだ。
あるいは大臣や有力者の意向に沿うしかない。
(私がメルトを後押しして……)
ここで無邪気にティリエに飛びつくほど、私は馬鹿じゃない。
ティリエの口元が歪んで見える。
私の認識では、アズールの血縁者のほとんどが政治の表舞台から排除されているはずだ。それがアズールの処世術であり、決定なのだ。
唯一、公職に残っているのが魔術省顧問のメルトだけ……のはず。
他の親族は地方に飛ばされているか、実権はない。
そこまで思考して、私は言葉を絞り出す。
「……意味はわかりますが」
「本当? じゃあ、早速動いてもらおうかしらね」
「ええっと、言葉の意味がわかっただけで皇太后様の意図通りに動くというわけではありませんよ」
ぴしゃりと言い放つ。
危ないな、この人は……この離宮に突撃したことも含め、自分本位で物事を進めるタイプだな。気を付けないと。
この辺りの機微も、元サラリーマンで揉まれた経験だ。
こちらを無視して突っ走る人には警戒しないといけない。
「お話はお伺いしたいと思いますが……」
で、少しガードを下げる。私のミッションはこの人から情報を得ること。
そしてアズールと私の生活の維持だ。
ティリエのことなんてどうでもいいが、情報は得たい。踏み台にはしたい。
「それほど難しい話じゃないわ。ポーションの技術をメルトに教えてあげて。そうすれば彼の地位も引き上がるはず。まぁ、お金で貢献してくれてもいいけど……金銭は目につきやすいから。必要なことがあれば、私も動くわよ」
「なるほど……」
うーん、それって私がメルトにやろうとしていることでは?
意図せず被っているような……。
私もメルトの信用を得るため、そうするつもりだ。
こっそり来週会う約束もしているわけで。
「それならば動けるかもしれませんね」
「あら、あっさり決めてくれるのね」
「メルト様に魔法薬を教授するのは、別に違法なことではないでしょう」
「ええ、ええ……その通り、その通りよ」
ティリエの目元が明らかに柔らかくなる。
「あの子には才能があるし、とても素直だから。然るべき舞台に立つべきよ。もちろん、引き立てる裏方は必要でしょうけど。アズールは何でもひとりでやろうとするから……あの子が側にいてあげれば、私や先帝陛下も安心なのにね」
「まぁ、陛下はそういう御方ですからね」
「そうよ、わかるでしょう? アズールが今まで何をしてきたか。この国の有様をすっかり変えようとしているわ。獣人を取り立て、トール族を排除して……」
そこでティリエが口元を歪める。
「元々、この国は私たちのモノだったのに。彼らは後から入った、奴隷の末裔よ。それをアズールは……」
アズールにずいぶんと不満があるのだなぁ……。
紅茶を啜りながらテキトーに相槌を打つ。それでも話が止まらない当たり、よほど不服だったのだろう。
でもこれで各々のスタンス、事情は見えてきた。
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