36.応酬
「そうですね……」
決意を固めた私はキャサリンへ顔を向けた。
「しばらくふたりにしてもらって、いいですか」
「……承知いたしましたにゃ」
この場で不服を唱えることは私を軽んじることにも繋がる。
キャサリンを始めとしたメイドが一礼して退出した。
これで貴賓室には私とティリエだけだ。
どう口火を切ってくるか。まずは見守ろう。
「聞きましたが、本当にあなたを婚約者として迎え入れたのね。あのアズールが」
ティリエの言葉には今も信じられない、という響きがあった。
「私が紹介した、どの令嬢も無下にした癖に…………なぜあなたなの?」
「……さぁ?」
私は心底分からないという顔をしてみせ、首を傾げた。
そこは本当に私も分からない。
「なぜでしょう。私も突然のことで」
「器量も家格もあなたより上の娘はたくさんいたわ。この国に限らず、広く大陸から募っていたのに」
「そう言われましても……」
うーわ……ないわ。
義理の息子が選んだ婚約者に、この言い分。
本当に気遣いというものがない。
私を認めたくないという気持ちがこれでもかと出ている。
でもこのくらいはっきりしていれば、私もこの人を見誤らない。
ティリエは敵だ、私の。
「自分で何も分からないの? どうやってあの気難しいアズールに気に入られたのかしら?」
「はぁ……疑問に思われるのでしたら、陛下に直接問いただしては?」
アズールが私を選んだ理由って、もしかしてティリエの息がかかってないから?
それは考え過ぎか……。
でもいきなり突撃したことを考えると、あながち的外れではないかも。
で、私の生意気な答えにティリエは眉をひそめた。
「……あなた、見た目に寄らず物怖じしないわね」
「気兼ねなくとのことでしたので」
ティリエがじっと私を見つめる。
かなりの眼力で、並の御令嬢なら委縮してしまうだろう。
まぁ、それを狙っているんだろうけど。
でも私にとってはあの館にいたときのほうが遥かにキツい生活だった。
今更こんな人に怯むわけがない。
「でも、わかったわ。あなたもアズールをそこまで好いているわけではないのね。そういう目をしていないもの」
「まぁ……そう見えますかね」
私的には結構アズールは好きだし、頼りにしているんだけど。
でもあんまりそういうオーラは出していないかも。
魂的には前世も加算すると、そこそこの年齢だ。
ティリエよりも年上になってしまう。
そんなオーラを出すような年齢でもない……。
「まぁ、あの子を心から好くのは獣人くらいでしょうけれど。はぁ、本当に……なぜ私たちをないがしろにするのか分からないわ」
「…………」
どこまでも嫌味な人だ。
本当にアズールやキャサリンを理解するつもりがないらしい。
「さて、あまり長居するわけにもいけないから――単刀直入に言おうかしら」
「……はい」
「あの子のことだから、きっと帝室の今後なんて一顧だにしていないでしょう。でも、それでは困るのよ」
ティリエの眼が細まる。
獲物を捉え、爪にかける瞳だ。
「あなた、錬金術を使えるんですってね。メルトと気が合うと思うわ」
「どういう意味でしょうか?」
「メルトは今、魔術省の顧問というお飾りに据えられてしまっているわ。身を挺してアズールを守ったのに……。アズールはあの子を冷遇してる」
……何を、何を言おうとしているんだろう。
メルトの名前がどうしてここで出てくる?
「メルトをその働きと才能にふさわしい地位に就けるようにして欲しいの。わかるかしら、この意味が?」
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