34.離宮に戻って
離宮に戻ってくると、どっと疲れが襲ってきた。
さすがに色々とありすぎたかも。
執務室から寝室へ移り、身体を横たえる。
「はぁ……ふかふか……」
用意された天蓋付きベッドは私が両腕を広げても、なお全然広い。
今日のことを反芻していくと――あっという間に眠気が臨界突破する。
考えるべきことはたくさんある。
でも明日のことは明日に考えよう。
そんな気ままな考えのまま、私は眠気に身を委ねることにした。
翌日、あまりにもすっきりした目覚めを私は迎えていた。
身体のどこも痛くなく、もう一度寝たいという気持ちもない。
それは当然だった。
なにせ起きたのが朝10時だったのだから。
「たっぷり12時間、寝ちゃったな……」
でも悪い気はしない。
急ぎの予定もないのだから、これくらい寝てても許されるはず。
もぞもぞと起き出し、身支度を整えて広間に向かう。
そこではキャサリンが満面の笑みで朝食を整えてくれていた。
「どうぞ、今朝はジューシーなソーセージとハニートーストですにゃ!」
「ありがとう、とっても美味しそうね」
三種のソーセージはそれぞれ薫り高いハーブを織り込み、しっかりと味つけされていた。肉の旨味をたっぷり味わいながら、オレンジジュースで流し込んでいく。
ハニートーストはデザートのような感じで、ベリー類がまぶしてある。
もしかするとリディアル帝国ではベリー類が多用されているかも……?
でもベリーが好きな私にはぴったりだった。
「うん……! どれも濃厚でとても素晴らしいです……!」
にこにこ顔で朝食を食べるとキャサリンも喜んでくれる。
キャサリンの尻尾がふりふり……。
彼女が喜んでくれると私も嬉しいし癒される。
朝食を食べ終わり、その後は執務室に籠ることにする。
昨日のことをちょっと整理して考えよう。
(メルトの後遺症……死熱毒……)
死熱毒の解毒は簡単ではない。少なくとも原作ではそうだ。
主人公が初めて治療薬の製造に成功したのだ。
『初期症状の段階で主人公がアズールの手を借り、世界で初めて治療薬を完成させてめでたしめでたし――』
大まかには、こうだった。
でもメルトはきっと初期症状を遥かに超えている。
果たして治療できるのかわからない。
(……でも原作でのメルトの死因は死熱毒じゃない。そのはずだ)
頭の中で思考がぐるぐる回る。
つまり、原作の運命をなぞるなら――ここからもうひとつ波乱がある。
その波乱によってアズールはメルトを殺めるのだ。
(うーん、この推測も根拠は前世の記憶だけなんだよなぁ……)
他人に確かめることはできない。
できるのは死熱毒について、調べること。
死熱毒を治療できれば、芋づる式に何もかもが解決したりして。
いや、そうならいいのだけれど……。
現実はそう甘くない。
そんな風に考えていた時、執務室が慌ただしくノックされる。
「ソフィー様、失礼いたしますにゃ!」
「どうぞ、入って大丈夫よ」
執務室にキャサリンが飛び込んでくる。
「申し訳ありませんにゃ、緊急事態ですにゃ」
「……アズールにでなくて私に?」
「はいですにゃ。皇太后様がこの離宮に来られていますのにゃ!」
皇太后――ティリエ・リディアル。
アズールの義母で隠居に追い込まれたはず。
でもそれは原作の知識だ。
もしかすると、今の段階ではそこまでではないのかも。
ごくりと息を呑む。
ティリエも断片的な情報しかない。
しかしひとつだけ、私が今現在知っていて相容れないことがある。
それはティリエは大の獣人嫌いということ。
そのためにアズールとも対立していたはずなのだ。
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