31.魔法薬店の2階で
ここから先はさらにリスクがある。
まだこのカウンターは大通りが近くて、店の前には人も多い。
何かあっても叫んで出れば助かるだろう。
しかし2階に罠があった場合は……。
ええい、考えてもしょうがない。
この髭の店主は最初、私を歓迎しない雰囲気だった。
無差別な罠を用意してはいないはず。
「わかりました、お邪魔いたします」
「おうよ。遠慮は無用だ」
カウンターへ入り、そろりとカウンター内に入る。
背中にも注意をして……。
「もしボスに気に入られなくても、落ち込むことはねぇぜ。あれは難しい人だからだよ」
「は、はい」
私の胸中を置き去りにして、店主に励まされた。
その激励を受けながら木の階段をゆっくりと昇る。
ぎしぎしと軋む音、きつい傾斜、暗めの灯り。
前世の経験からすると、こんな階段はあんまり見たことがない。
階段を昇った先にぼうっとした灯りがある。
2階はベッド付きの工房だった。
ベッドの上にいる男が面倒くさそうに声をかけてくる。
「いらっしゃい、声は聞こえてたよ」
それは生気のない、青年の声――あれ?
「あいつも困った奴だ。悪いが、今は商売する気がない。このまま帰ってくれないかな」
「…………」
今度ははっきりと聞き取れた。
まさか、こんなところで声を聞くことになるとは……。
「殿下……」
「あ? お前は……ソフィー!?」
ベッドの2階にいたのはメルト殿下だった。
上半身をはだけさせ、寝そべっている。
なぜ、こんなところに……?
いやそれは向こうもだろう。
頭をフル回転させ、とりあえずベッドへ近付く。
「……お互いに疑問はあるでしょうが、声を潜めましょう」
「ああ……」
メルトが上半身をすっとシーツで隠す。
だけど、近付いたことでメルトの上半身がよく見えた。
彼の背中には黒の魔力が蠢いている。
それは傷のようで、あるいは死神の手のようで。
不吉で、焼けつくような魔力を感じる。
「その背中のは……大丈夫なのですか?!」
「うるさいな」
メルトは魔術省の時とは打って変わり、にべもない。
「君、なんでこんなところにいるんだ」
「……それは」
一瞬のうちに私は思考を展開させる。
ここだ。ここの答えを外してはいけないと本能が言っている。
メルトはなぜ、こんなところにいるのか。
店主いわく彼がここのオーナーなのは間違いない。
そして……殿下という身分を店主に明かしていたら、よく知らない誰かを2階に上げることもないだろう。
つまり店主はメルトのことを知らず、単なる気難しい若きオーナーと考えていた。
こう推測できる……はずだ。
(で、普通にやる活動ならそんなことも必要ない……。魔術省の予算があるんだから)
つまりメルトは魔術省にも店主にも秘密で、ここを構えている可能性が高い。
……それは。
詳しい活動内容によっては、アズールの不興を買うのに十分なのでは?
「ぐっ……」
そこまで思考を巡らし、私が答えないうちにメルトがベッドに倒れ込む。
「大丈夫ですか……!?」
メルトが唸りながら私に手のひらを向ける。
「……大きい声を出すな。なんでもない」
「なんでもない……?」
そんな訳があるか。
メルトの背にある黒の魔力がのたうち、動いている。
明らかにこれが原因で――私は記憶の内から、この黒の魔力に似たようなものを思い出していた。
原作は魔法薬の物語なので、必然的に毒も出てくる。
その中には主人公が立ち向かった毒も……。
熱を持ち、黒い斑点。
メルトの背にあるのは斑点というよりは巨大な痣だけれど。
「……死熱毒ですか」
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