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3.皇帝アズール

 どうしよう。

 なぜこんなところに彼がいるのだろうか。


 この世界には飛行魔法もあるけれど。

 アズールはこの館の上階から飛んで降りてきた……?


 いや、考えるのは後にしないと。

 まずこの機会を逃すわけには……!


「あ、あのっ!!」

「んんー、にしては妙だよねぇ」


 私が口を挟む前にアズールが顎に手を当てて考え始めた。


「燃えているようで燃えてない。色のついた煙だけだ。まるであえて被害を出さないようにしてるみたい。どういうことなのかなぁ」

「それは……」


 はっとすると、目の前の野次馬から兵がぞろぞろ出てくる。

 後ろからも兵が――思ったよりもずっと早い。


「あそこにいる! 見つけたぞ!」

「絶対に逃がすな!」


 ……逃げるつもりはない。

 アズールと出会うために、この騒動を起こしたのだ。


 にしても、さっきアズールは何て言った?

 会談……確かにそう言った。


 アズールが会談する相手なんて、そんなにいるはずがない。

 しかもこの館で会談するとなったら、相手はひとりしかいない気がする。


「あっちです! フィリス様!」 

「ソフィー、もう逃げられないぞ!」


 やっぱり。

 背後からフィリスが現れた。

 ついでにクーデリアも。思ったより復活が早かった。


 私の婚約者で人でなしのフィリスが、この館にアズールを呼んでいたのだ。


 この館は5階建てになっている。

 で、騒ぎになってアズールは飛行魔法で脱出して……私の前に降り立った。


 もしかしたら犯人を確かめたくなったのかもしれない。

 アズールはそういう人間だ。


 フィリスが顔を強張らせながら、私たちに近寄る。

 無理もない。私とフィリスの国に比べたら、リディアル帝国は何倍も大きい。


 アズールはフィリスにとって決して怒らせてはいけない相手のはずだ。

 案の定、フィリスとクーデリアが畏まりながら私に近付く。


「アズール様、ご安心を! 大罪人はすぐに逮捕いたします!」

「ええ! 絶対に逃しませんわ!」

「……はぁ」


 アズールがつまんなさそうに手をひらひらさせる。


「ちょっと待ってよ。今、彼女と話しているのは僕なんだからさ」

「えっ? し、しかし! こいつは危険です!」


 その時、アズールの金色の眼が光った。


「は? 二度は言わないよ」


 冷めた響きがフィリスたちに向かう。

 たまらずフィリスもクーデリアも一歩、後ずさる。

 

 私はなんとか踏み止まっていた。

 知っている。アズールは人嫌いで、こういう人間だ。


「……うっ!! ア、アズール様……!」

「おっと、フィリスくんを脅すつもりはなかったのに。ただ、ちょっと待ってて欲しいだけなんだから」


 それだけ言うと、アズールが朗らかに私へと微笑む。

 なんという切り替えの早さだろうか。


「で、質問に戻るけど……どうなの?」


 質問。

 『ねぇ、これって僕を暗殺するためにしたの?』か。

 私は息を整えて、はっきりと答えた。


「さきほどのご質問でしたら、答えはノーです。あなたさまがいることを知りませんでした」

「ああ、そうなんだ。だよねぇ。じゃあ、なんでこんな騒動を起こしたの?」

「自由になるためです。私の名前は――」

「ソフィー・セリアス。公爵令嬢。フィリスくんの婚約者。凄腕の錬金術師」


 私が言う前に全部言われた。

 ……アズールは私のことを知っている?


「あはは、知らないと思った? まさか、僕もこんな風に会うなんて思ってはいなかったけど」


 アズールが私の傷んだ黒髪に手を伸ばす。

 今の私は過酷な労働のせいで正直、あまり良い見た目ではない。


 でもアズールはそんなことは関係ないようだった。

 鈴の音のような声が優しく語りかけてくる。


「髪はボロボロ、頬は痩せこけて、目の下にもクマがある。魔力だって使い果たしてさぁ……これが王子様の婚約者なのかい? 信じられないな」

「アズール様! こ、これには深い訳がありまして!」

「そ、そうです! 私たちが悪い訳じゃあ……!」


 震えを押さえながらフィリスとクーデリアが前に出た。


 アズールが初めてフィリスたちを直視する。

 その顔は明らかに不機嫌そうだった。


「言ってみなよ。どういう訳があるの? 同盟国にも婚約者を一切紹介せず、こんな姿で。しかも彼女から感じられる魔力は、僕の国も輸入している最上級のポーションに含まれる魔力と同じだよ」

「そ、それは……」

「推測だけどさぁ、彼女を軟禁してポーション作りさせてたんじゃないの?」


 驚くほど当たってる。

 わずかな情報からも状況を的確に見抜く悪魔じみた知性。

 それがアズールを皇帝に押し上げたのだ。


「ねぇ、勝手に喋っちゃったけど合ってる?」

「はい……ご推察の通りです」

「ソフィー! 勝手になんてことを……っ!! お前は俺の婚約者だろうが!」

「そうよ! フィリス様のおかげで生きていられるくせに!」


 苛立ちを私にぶつけてくるフィリスとクーデリア。

 今までの私ならきっと黙って受け入れてたんだろう。


 でも前世を思い出した私はもう、黙ってなんかいられない。


「婚約者? そんな扱いを受けた覚えはひとつもありませんが。むしろあなたの婚約者だったことなんて、私にとっての汚点でしかありません」

「な、なんだと!」

「あげくに政務を放っておいて、贅沢三昧。私の作ったポーションの代金は全部懐に入れて……そんな人とは結婚したくありません!」


 群衆の中から「そうだ! 放蕩王子が!」「遊んでいないで働け!」という声が続々と上がる。

 思ってもみなかった野次馬たちの反応にフィリスがのけぞった。


 フィリスが王子として不適格なのは小説の中の話だけれど、ここでも合っていた。

 まぁ、クーデリアを愛人にしている時点で予想していたけれど。


「それにクーデリア、あなたもご自分をフィリス王子のお気に入りだと思っているようですが――彼にはもう隠し子がいますよ」

「……は?」

「シャンゼリゼ子爵の娘さんです。最近、王子と親密だったでしょう。あなたにも覚えがあるのでは?」


 これも小説の中でのネタだ。

 世間に露見するのはもっと先だけど、もういいや。


「そ、そんな……わ、わたしの他に愛する人が!? しかも子どもまで!?」

「違うんだ、クーデリア! 彼女は遊びで……!」

「じゃあ関係があったのね!?」


 はぁ……それを嘆きたいのは私のほうなんだけど。

 本当にうんざりさせられる。


 でもこれで大義名分は立った。

 全員にはっきり聞こえるよう、私は宣言する。


「この国の法律では、不貞行為があったら婚約は一方的に破棄できるはず。

 私、ソフィーは謹んで婚約を破棄いたします!」


 言った。言ってやった。

 群衆からは大歓声だ。口々に賛同の叫び、はやし立てるように口笛も鳴る。


「うぅ……平民ども、調子に乗るな!!」


 フィリスが一喝するが群衆はますます騒ぎ立てる。

 こんな面白い見世物はそうそうないんだろうな。


 で、肝心のアズールは――。


「……くくく、あはは、あーっはは!」


 笑ってた。大受けしてる。

 

「ふふふっ、まさかこんな展開になるなんてね! 完全に予想外だよ! あははっ、笑いすぎて涙が出そう! 僕がこの婚約破棄を支持して、認めよう! 証人になってあげるよ!」

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