29.さらなる情報
「宵闇通りというのは……えーと、ちょっと治安が悪いっていう、あそこのことですか?」
私は記憶をたぐり寄せながら答えた。
原作でも宵闇通りの名前は出てくるが、ほんのちょっとだけ。
アズールいわく『最悪な連中の掃きだめ』と吐き捨ててたかな……主人公に対して。
だから宵闇通りは帝都にありながら直接的な舞台になったことがない。
断片的なことしか私も知らない。
「ああ、そうだよ。よく知ってるね」
「あそこは流れ者、犯罪者、闇商人の巣窟さ」
ヴォーパルバニー族の人たちがお酒をぐいっと飲みながら語る。
「でも、だからこそ儲かる話もある」
「そう……例えばポーションとか」
「――っ!」
私の反応を見て、ひとりが笑い始める。
「お嬢さんも錬金術師なら色々な魔法薬が作れるんだろう?」
「メジャーなのは低純度のポーションだね」
「ええ、まぁ……」
低純度のポーションは市場に良く出回る治療薬だ。
風邪薬、消毒液、栄養補給……そのぐらいの効果はあるが、劇的というほどではない。
駆け出しの錬金術師はまず、この低純度の作成から挑戦する。
逆に言えば低純度のポーションが作成できないと、一人前の錬金術師ではない。
まぁ、私は世界でもトップクラスの高純度ポーションも作れるけれど。
当然そんなことは言ってはいけない。
「魔法薬はどこも国が統制してるけど、抜け道はどこにでもある」
「そう、闇の魔法薬っていうやつ」
それ自体は不思議ではない。
所詮、人の営みというのは完全に制御はできないのだから。
私も精神年齢はそれなりに重ねているので、わかっているつもりだ。
「ははぁ……でもそれが、殿下とどういう繋がりが?」
「わからない? 殿下は毒を飲まれたんだよ」
「そう、陛下の代わりにね」
「…………」
私は試されていると感じた。
私がこの話を聞くのに値するかどうか……下手な答えを返せばそこで終わりになりそうだ。
「真犯人を探している、ということですか」
「いい着眼点だね。そうなんじゃないかって噂されている……」
「あるいは後遺症があるのかもね。厄介な毒だったみたいだし」
「……なるほど」
決定的な話ではない。
でもメルトが陛下に黙って動いているのなら――それによってアズールを怒らせることは十分ありえそうだ。
アズールの性格からして、身内が単独行動や独断専行することを好むとは思えない。きっと制御したがる。
だけど宵闇通りはそういうのとは真逆だ。
そろそろ本格的な夜になり始めている。
ここでの情報収集はもういいだろう。
「ありがとう、参考になったわ」
「どういたしまして。僕らはよくこの酒場に来ているから、またご縁があったら」
「お酒ありがとうね、頑張って」
お支払いをし、ヴォーパルバニー族とバーテンダーに見送られて酒場を後にする。
夕陽はほとんど落ち、夜だ。
なんだかランデーリ王国に比べて星が綺麗に見える気がする。
標高があって空気が澄んでいるからだろうか。
さて、これからどうしよう。
街はまだお祭り騒ぎで大騒ぎだ。
ランタンの灯、陽気な歌、酒と食べ物の匂いが満ちている。
(……もし宵闇通りに行くなら、今日という選択肢もあるか)
名前からして昼間に行っても進展はなさそうだ。
夜は夜で怖いけれど。
でも今日は人通りがとにかく多く、心細くない。
ちょっとだけなら宵闇通りを見てもいいのでは……?
(まだ手持ちのお金にはだいぶ余裕があるし)
いざとなったらお金で解決、というのもアレだけれど。
人の多い今夜を逃す手はない。
そうと決まれば行くのみだ。
通りの屋台、テーブルで飲む人々をすり抜けながら、私は宵闇通りへと向かった。
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