27.市街の酒場
御輿の行進を見届けた私は、帝都の酒場へと移動した。
さすがにあの大通りで人の話を聞くのは無理そうだし……。
で手近な酒場に入ってみたものの、そこでもどんちゃん騒ぎは続いていた。
「今日は大いに飲むにゃー!」
「にゃーん!!」
大通りの店なので内装も客も上品な感じがする。
スラム街的な雰囲気はまったくない。
テーブルはほぼ満席。カウンターがまばらに空いている。
(とりあえずはここで話を聞いてみようかな……)
カウンターにすっと座り、壁にかかれたメニューを読む。
『ブイヤベース・ローストチキン・スパゲッティ 銅貨5枚』
『その他、お任せ皿 銅貨7枚』
『ノンアルコール ブドウジュース 銅貨5枚』
『アルコール ワイン 銅貨7枚』
銅貨1枚が日本円で100円くらいのはず。
値段的にはまぁまぁお手頃だと思う。
とりあえず、こそっと持ってきたお金を払って注文する。
「ローストチキンとオレンジジュースをくださいませんか」
「わふ、豆とツナの煮物もどうですかわん?」
「ではそれもお願いします……!」
ローストチキンがすぐに出てきたので、それをつまむ。
やや強めの塩気とほむっとした食感。
もしゃもしゃ……。
ちょっと歩いた小腹にすーっと入ってくる。美味しい。
隣ではヴォーパルバニー族の人が山盛りのにんじんソテーを食べながら話をしていた。
……ウサギの特徴を持っているから、にんじんなのかな。
「にしても、あの陛下がご結婚とはなぁ……」
「はむはむ。急な話だったねぇ」
お、ちょうど婚約の話をしている。
ちょっと聞き耳を立てさせてもらおう。
「聞いた? このお祭りは商人ギルドとかの主催なんだってさ」
「ふぇー……相変わらず耳聡い連中だね。それでお祭り騒ぎをやって一稼ぎしようってことか」
「そうそうー、抜け目ないよねー」
ぽりぽりぽり。ヴォーパルバニー族の方がにんじんをかじりながら会話する。
それからも商売の話が続いていったので、この人たちは商人なのかな。
(……これ以上の情報はないか)
私が欲しいことがすぐにわかるとは、そもそも期待していない。
じっくり何度も外から情報収取を重ねるしかないだろう。
しぼりたてオレンジジュースが出されたので、口の中をリセットしながら次の料理を待つ。
ずずず……。他に話が聞こえてきそうな人は……。
「お嬢さんは帝都の人かい?」
コボルト族のバーテンダーから不意に声をかけられる。
おっと、一人客なので気を遣わせちゃったかな。
とりあえず無難な答えを返す。
「私は最近引っ越して来たばかりで。出身は違います」
「はぁ~、そうだよね。ここより南のほうだろう?」
「わかりますか。当たりです」
「長くカウンターに立っているとわかるものさ」
ふぅむ……。
アズールやキャサリン、メルトと私で言葉のアクセントに違いはないはずだけれど。でもこの人にはわかるらしい。
帝国出身だと嘘をつく時が来るかわからないけど、その時は考えないと。
人によってはすぐに見破られてしまう。
「で、お嬢さんは錬金術関連の商売をしているんじゃないかね?」
「……そこまでわかりますか?」
「ああ、錬金術の人は無意識に全身の魔力を抑えがちなんだ。不思議なもんだよねぇ、魔術師はそうしない。錬金術の人だけなんだ。わふっふ」
話を聞きながら、背中に冷や汗を流す。
マズい、それも知らなかった。そんなにわかるほどの違いがあるのか。
でも思い返すと、アズールは確かに魔力を抑えてはいなかったような。
ふむむ、逆に私から素性を推測する時に使えるかもしれない……。
それからバーテンダーの人から色々と話を聞いて。
夜が深まるにつれて、酒場の喧騒は大きくなる。
私も話のお礼にバーテンダーにおごったり……。
(そろそろ場も温まってきたかな)
メルトのことについて、情報収集をしなくちゃ。
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