26.潜入
「ここは……?」
夕方でまだ陽は残っている。
周囲を見渡してみて……林の向こうに細長い白の時計塔がある。
「……もしかして帝国大学かな」
目を細め、時計塔をよく見てみる。
白の時計塔の最上部だけ赤。
うん、間違いない。
ここはリディアル帝国の帝国大学だ。
宮殿からもほど近く、市街地へも続いているはずだ。
これは原作知識だけど、さすがに違いはないと思う。
「こんな猫ちゃんの彫像があったなんてね」
これは原作では言及がなかったな。とっても可愛らしい。
ぺたぺたと私は猫ちゃんの彫像を撫でる。
太陽の熱がまだ残っているのか、ほんのり温かい。
帝都の構造も原作と変更なければ、ほとんどわかる。
林をゆっくり時計塔方向に進むと道が現れ、人の姿が見えてきた。
時計塔の周囲には講義棟が立ち並び、活気がある。
(呼び止められないよね、大丈夫だよね……)
ちょっとドキドキ。
最悪のパターンはここで顔と名前がバレること。
そうなったら潜入作戦は終了だ。
しかし歩いている人は若者が多い……大学だからね。
ケットシー族やコボルト族が大半だけれど。
とりあえず服のセンスもそう違いはないと思う。
直接、私の顔さえ知っている人間がいなければ不審がられることはない。
人目を引かない程度にはゆっくり、でも心持ち早歩きで。
帝国大学の構内を横切っていく。
建物の配置からすると、市街地は南のほうだ。
そちらに歩いていくと段々と人が多くなっていく。
トール族(いわゆる私の種族)の数自体も増えているので、私も目立ちはしていない。むしろかなり控えめだ。
ふぅ……。
目の前には翼の意匠が刻まれたアーチがある。
これが校門代わりのはず。
アーチをくぐると、そこは帝都の大通りだ。
わっと人が増え、多種多様な人が行き交っている。
「……よし」
ここまで猫の彫像から10分も経っていない。
たっぷりと調べることができる。
と、そこで人の波がアーチにまで寄ってきた。
いきなり人口密度が急上昇する。
「な、なに?」
通りの向こうから何かが近づいてきている?
それで人が押され、増えているのだろうか。
やがて陽気なラッパとギターの音が人声に混じって聞こえてきた。
赤と白、そして極彩色の紙吹雪も舞っている。
ぐーっと首と背を伸ばすと、音の鳴るほうから派手な馬車が近寄ってくる。
いや、あれは馬車ではない。馬に引かれた派手で巨大な御輿だ。
赤、青、白――羽飾りやのぼりでこれでもかと目立っている。
御輿に乗るケットシー族がラッパを吹き、ギターを奏で、ヴォーパルバニー族が紙吹雪を飛ばしていた。
御輿の中央には背の高い、黒服のコボルト族が大声で呼ばわっている。
「さぁ、皆の衆! 今日は祭りだ! めでたい日だよ!」
おお、そうなんだ……。
知らなかったけれど、今日は帝都でお祭りがあるんだ。
ということは人出も多いはず。
調べて回るには好都合かもしれない。
あるいはちょっと美味しい物を食べるのにも――。
が、私のノー天気な思考はコボルト族の次の大声で消え去ってしまった。
「アズール陛下が花嫁を連れ帰ってきた! 実にめでたい! さぁ、皆で祝おう!! 婚約記念のお祭りだ!」
……えーと。
どうやら、このお祭り騒ぎの発端はアズールの婚約らしかった。
つまり、それは私も発端なわけで。
その婚約者はここにいるんですよねー……。
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