22.私の新居
魔術省から宮殿を抜け、離宮に向かう。
それは宮殿の最奥にあるようだ。
太陽光がいっぱいの庭、まぶしいくらいの白亜の離宮。
三階建ての豪勢な建物だ。
「ここがソフィー様の離宮ですにゃ!」
「とってもいいわ……!」
日当たりは良好で、庭も広い。
ここまでのどの建物よりもゆったりとしている。
さらに水はないけれど噴水と池らしきものさえあった。
庭はまだたくさんの人が作業していて、その中心にアズールがいる。
遠くからでも彼の銀髪がよく目立つ。
私はなぜだか、彼の目につく前に紅茶の袋を服のポケットへと隠し入れた。
「待たせたね、離宮はもう大丈夫だよ」
「ありがとうございます。立派な建物ですね」
「僕の婚約者のためなんだ、当然だろう」
にこりとアズールが微笑む。
彼もこの離宮には自信があるようだった。
「庭は整理させているけど、もうちょっと時間がかかるかな」
「大丈夫です、ゆっくりやって貰えれば……」
アズールの案内で私たちは離宮へと進む。
「噴水も池も気に入らないなら取っちゃっていいよ」
おお……気軽に言ってくれる。
庭に池を置こうか迷うだなんて、贅沢な話だ。
肝心の離宮は内部も落ち着いた白を基調としており、とても良い。
窓は開け放たれ、まだ内部では人が行き交っているけど。
「どの階にも水道が通っていて、不自由はない。魔力灯も同じく」
この世界では魔力のおかげで近世レベルの科学力がある。
まぁ、空飛ぶ船があるくらいだしね……。
「君の錬金術関連のモノはどこに置く?」
「……そうですね」
私の寝室は3階にしたい。
でも同じ3階にあると仕事場と近すぎるような……。
ここではオンオフを切り替えたいなぁ。
1階には嫌な思い出がある。
そうすると2階がいいだろうか。
「2階に運んでもらっていいですか?」
「わかった、アラン=ウェズールから運ばせておくよ」
本格的なお仕事は飛行船からの荷物を整理したあと。
だから多分、数日後になるだろう。
「……気に入ってくれたようだね」
「はい、もちろん! 陽がたくさん入りますし」
あのフィリスの館は暗かった。
私を出すつもりがなかったので、当然だろうけど。
それに比べるとこの離宮は全然違う。
階段も窓も多い。なんだか開放感がある。
「不足の品があったら好きに用立てるといい。はい、これ」
アズールが何気なく懐から紙を差し出してくる。
細長くて硬い紙だ。
何だろう、と思いつつもそのまま受け取る。
『引換券 リディアル金貨10万枚』
その数字を見て、穴が開くほど紙を凝視してしまった。
(こ、これは……っ!!)
前世の知識をフル回転させる。
リディアル金貨は1枚10万円くらいの価値があったはず。
だから、えーとえーと……100億円くらいだ。うん、合っている。
紙でペラっと渡すものじゃないよ!
「これ、1年間の歳費ね。この範囲でなら好きにしていいから」
「え、えぅ……!」
変な声が出てしまう。
この紙はどうすればいいんだ。
なくしちゃいけないし、金庫に入れないと。
いや、金庫でいいのだろうか。
「ああ、その引換券は試しに作っただけで……別に意味はないよ?」
「はぇぁっ! だ、騙しましたね!」
「10万枚なんて運べないから、分かりやすくしただけだよ」
クスクスとアズールが笑う。
くっ、この男……私の反応が見たくて作ったな。
「でも10万枚の歳費は本当だよ。帳簿は明日、届けさせるから」
うっ……しかし歳費自体は本当らしかった。
しかし100億円あったとして、どうやって使えばいいのだろうか。
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