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21.紅茶マスター

「それはどういう……?」

「ん、君は僕のライバルってことさ。今、君がやったことが当面の僕の目標ってこと」


 あっけらかんと言われ、頭の処理に時間を要する。


 ……なんだか照れる。

 ここまでストレートに自分のことを褒められると。


「――急がないとね」


 それはかすかな呟きで。

 聞き逃しそうになってしまうほど。


(何を急ぐんだろう……?)


 私は彼のことを知らない。

 何を急いでいるのかもわからない。

 ぱっとメルトが両手を軽く上げる。


「さ、手間を取らせたね。あれだけ高度な作業をしたんだ、疲れたでしょ」

「えーと……」


 集中力は要するけれど、私はそこまで疲れていなかった。

 むしろ歩き回った疲労のほうが……。


「紅茶でいいなら極上の葉がある。どうだい、飲んでく?」

「で、では頂きます!」


 確かに挨拶回りでちょっとブレイクダウンはしたい。

 すでに最初のほうで挨拶した人の顔と名前がごっちゃになっているし。


「待ってて。ああ、コンデール産のがまだ余ってた。甘いのは平気?」

「全然、お構いなく。なんでも大丈夫です」


 って、メルトがお湯を沸かしてる?

 自分でカップも用意して。


 仮にも皇族にやらせていいのだろうか……。


 キャサリンをチラ見していると、こそっと言われた。


「紅茶について、殿下は人の手を借りませんのにゃ」

「あ、そうなんだ……」


 上機嫌なメルトが紅茶を淹れ、クッキーまで用意してくれる。

 肌色のクッキーにごろっと果実のブルーベリージャム。


 紺色のトレイに載せられた紅茶セットを、メルトが目の前まで運んでくれた。

 

「はい、どうぞ」 

「ありがとうございます……!」

「んじゃ、僕は奥の部屋で寝てるから。飲み終わったら適当に置いておいてよ」

「……は?」

 

 メルトが今さっき淹れた紅茶の葉の袋をぽふっと置く。


「あとこれはお土産に。要らなかったらそのままでいいから」


 メルトはそれだけ言うと、私の調合したポーションを両手に持って奥の部屋へ歩いていく。しげしげとポーションの瓶を眺めながら。


 ぱたんと扉を閉じて。


 ……本当に行ってしまった。

 なんという自由人。でもなんとなくだけど――。


「はぁ、ソフィー様……どうかお気を悪くしないでくださいにゃ。メルト様はああした御方ですのにゃ」

「もしかしたら気を遣ってくれたのかもですけど……」


 多分、私にポーションを作らせたのが甘えすぎだと思って。

 代わりにこのもてなしをしてくれたのでは、という気がした。


 純白に金の模様入りカップを取り、香りを堪能する。


「うん、とてもいい」


 目を閉じると草原で横になっているような。

 そんな優しい情景が思い浮かんでくる。


 そのまま紅茶をそっと口に含むと涼やかな甘みが染み渡ってきた。

 美味しい、文句なく。


 ブルーベリージャムのかかったクッキーもとても良い。

 パンチのある酸味と果実のごろっと感。

 紅茶が進んで身体に活力が来るのがわかる。


「とても美味しいですにゃ」

「うん、紅茶にこだわってるのも本当だね」


 こうして紅茶を飲んだ私は、置かれた袋を持ち帰ることにして。

 メルトの地下工房を後にした。


(……彼自身は悪くないような人だと思うけれど)


 キャサリンの態度を見ていても、そんな気がする。

 彼女もメルトを警戒している風ではなかった。

 私に粗相をしないかどうかだけ、気にしていたような……。


 1年以内に何かが起こるとは、とても思えない。

 

(でもそれは私の希望的観測でしかない)


 キャサリンに悟られないよう、唾を飲み込む。

 まだ王宮に来て、初日だ。


 前世の知識があったとしても、それは変わらない。

 私はまだ何も知らない――。


 そのまま魔術省を後にしようとして、伝令がやってくる。

 二足歩行する鷹のような有翼族の人だ。


「お二人様、離宮のご用意ができたとのことでございます」

「わかりましたにゃ。ソフィー様、とりあえずお住まいに向かいましょうですにゃ」

「ええ、そうね」


 魔術省の塔を見上げながら、思う。

 

 せめて手の届く範囲では。

 私は私の平穏のために生きたい。


 誰かが不本意に死ぬようなことには、なって欲しくはない。

【お願い】

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