18.魔術省へ
発着場から宮殿へは直通だった。
ゆったりと低木、花壇に添えられた道を行く。
木も花の種類も北のモノなので、葉も少ない幹も細い。
それでも花はくっきりと真っ赤に咲いている。
そのまま私たちの集団は宮殿へ。
きらびやかな白の石柱と大理石は見上げるほど高く、シミひとつない。
アズールの潔癖的なところがよく出ている。
「離宮の手配をさせているけど、片付くのに時間が少しかかるかな。その間に宮殿を案内しようか?」
「い、いえ! アズール様はぜひ、お仕事に向かってもらえれば!」
実は前世の知識でもって、間取りだとかは知っていたりします。
その意味ではアズールと一緒なのは嬉しいけれど、彼の案内までは申し訳ない。
「そう? じゃあキャサリンに案内を任せようかな」
「はいですにゃ! 宮殿のことなら何でもお任せですにゃん!」
ということでアズールとは別れ、キャサリンたちと一緒に宮殿を回る。
どこにも人がいて忙しそうにしており、活気がある。
……実にふもふもな方々が多い。いいことです。
各所に挨拶しながら、休みながら。
キャサリンはこちらの呼吸や負担を考えていてくれる。
そういうことで数時間――宮殿周りも佳境に入ってきた。
一周ぐるっと回って発着場付近に戻ってくる。
一番、楽しみにしていた場所だ。
「ここが魔術省ですにゃ~」
「おー……!!」
紺色のそびえる巨塔、ここが魔術省の本拠地だ。
小説の主人公もよく来ていた場所なので、私としてもなんとなく感慨深い。
「ちょっと散らかってるので、そこはご容赦くださいですにゃ」
「全然気にしないですよ! 魔術師はそんなもんですし」
私も片付けは苦手なので。
塔の中に入ると懐かしい匂いが漂ってくる。
花と薬品の香りだ。
ふんふんと聞きながらも興奮を抑えられない。
どれも最新設備と高品質の素材にあふれ、予算があるのが見て取れる。
やっぱり私は地道な作業の錬金術が好きみたいだ。
徹夜してまでやりたいとは思わないけれど……。
でも可愛い方々のためにも働きたくなってくる。
「いい設備ですね~」
「お褒めに預かり光栄ですにゃ、必要なモノがありましたらソフィー様の離宮に運ばせますのにゃ!」
そんなことを話し、魔術省の職員と自己紹介をしあう。
魔術省だけはたっぷり時間をかけて、と。
2階、3階と上に行き……。
塔の奥からひとりの人間がのそっと現れた。
魔術省で初めての人間だ。
「あなたが錬金術師のソフィーですか」
涼やかな声とは裏腹に陰鬱な雰囲気をまとい、目の下にクマをつけている。
くすんで跳ねた銀髪と伏し目がちな瞳。
しかし顔は驚くほど均整が取れており、体格も悪くない。人を惹きつける魅力はあるけれど、自分からお洒落をしない雰囲気が醸し出されていた。
ちょっとどころではなく、アズールに似ている……。
「ご紹介しますにゃ。陛下の従弟に当たりますメルト・リディアル殿下でございますのにゃ!」
「……どうも、メルトです」
(えっ……?)
すっとメルトが手を差し出してくる。
そこで私は固まってしまった。
メルト――確かに小説でも名前は出てくる。
でもその人物は回想でしか出てこない。
アズールが粛清した親族のひとり。その中にメルトがいたはずだった。
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