17.帝都発着場
アラン=ウェズールはゆっくりと宮殿の奥へ降下していった。
ここからは見えなかったが、やっぱり宮殿の東側に発着場があるようだ。
「いずれは整備場と発着場をもっと増やしたいねぇ」
「そのためには予算が必要ですね」
「まさに。空中船はとても便利だけど、お金がかかる」
それはそうだろうな。
空中船を設計、実用化したのはアズールだ。
つまりリディアル帝国の独占技術だけれど、コスト面は難題だろう。
ランデーリ王国でこのアラン=ウェズールと同じものを作ろうとしたら、国家財政が破綻するかも……。
この一隻でさえ、そのくらいの代物なのだ。
降下した発着場は、お洒落な空港といった雰囲気だった。
植木はぴしっと一列に刈り込まれ、芝生が敷き詰められている。
管制塔、それに整備工場らしき倉庫も見えた。
ほんの軽い揺れでアラン=ウェズールは発着場に降り立つ。
ドキドキ……。
前世の知識としてリディアル帝国は知っていても、訪れるのは初めてだ。
しかもアズールの婚約者という立場で。
帝国の方々はどう思うのだろうか。
まさか石を投げられることはないと思うけれど。
歓迎されないとそれはそれでツラい。
「さぁ、案内するよ」
「はい……!」
アズールの差し出した手を取り、ゆっくりとタラップを降りる。
船から芝生へ移ると、空気の質が変わって感じた。
「……とっても涼しい」
さっきアズールの言っていた、船の結界を越えたのだ。
ランデーリ王国よりも体感で数度は涼しい。
私はぼんやりと夏の軽井沢を思い出していた。
芝生を少し行くと、リディアル帝国の方々がずらっと並んでいるのが見える。
「いつも出迎えは無用って言うんだけどね。でも聞いてくれなくて」
「慕われているのですね」
アズールは肩をすくめながらも満更ではない顔だった。
並んでいるのは紺色の服を着たケットシー族、コボルト族、ヴォーパルバニー族の方々で、ニンゲンはひとりもいない。
列の中から黒毛のケットシー族が前に出る。
左胸に勲章とバッジが多数。この中で一番偉い人かも。
「お帰りなさいませにゃ、陛下!」
「ただいま」
「失礼にゃがら、お隣の方は……?」
アズールが少しもったいぶって、咳払いする。
それから彼は若干はにかみながら私のことを紹介した。
「僕の婚約相手、ランデーリ王国のセリアス公爵、ソフィーだ」
さて、どのような反応になるだろうか。
受け入れてもらえるだろうか。
笑顔を浮かべながらも内心、かなりビビっていた。
で、お出迎えの方々の反応は……。
「にゃ、にゃんとおっ!! これはおめでたいですにゃ!!」
「ついに陛下もご結婚へ向けて前向きになられたわん!」
「お祝いしなきゃですにゃー!!」
お、おおー……。
想像以上に受け入れられている!
というか、やっぱり女っ気がないと思われてたんだ、アズール。
まぁ……私に興味を持つぐらいだから、普通の女性には惹かれないか(自分が面倒だという自覚はあります)
「このソフィーはリディアル帝国へ供給されていた、ランデーリ王国産高純度ポーションの作り手でもある。彼女の知識は帝国にとっても重要なものになるだろう」
「なんと、あの途轍もないポーションの!?」
「おおっ……! こんな高名な方に来てもらえるとは!!」
「お触れを! お触れを出さなくちゃですわん!」
それからはお祭り騒ぎだった。
無理もない、これだけ大きな国の皇帝が外遊したと思ったら、婚約者を連れ帰ってきたのだから。
後で聞いたら、出迎えの人たちは帝国の留守を預かる重臣たちとのことだった。
いや、それにしてはハイテンションだったな。
(……というか、私ってかなりの有名人?)
原作小説の開始時点でソフィーは死んでいるので、私にもよくわからない。
でも、とりあえずあの地獄の日々には価値があったということだ。
二度とやりたくはないけど。
私の好感度は確かに跳ね上がったようで……不審がられることも煙たがられることもなく、お姫様のように宮殿へと連れていかれた。
(あとは……ふふっ)
ちやほやされるのも悪くないけど、私としては――スキンシップということで、皆さんの頭を撫でられるのが一番だ。
やっぱり皆、ふもっふもしててとても良い。
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