13.父の破滅
「早く、早く取り押さえんかっ!!」
「とても無理です!」
ジョレノの怒号に対して衛兵が叫び返す。
実際、アズールの動きは淀みなく止まることがない。
一動作することに衛兵が転がされ、吹っ飛ばされるのだ。
細身の腕からは信じられない力だった。
それに背中から攻撃されようと全く関係ない。
戦いの場になっている全てを把握して、支配していた。
そうして十数人が無力化されただろうか。
ついに衛兵のひとりが叫んだ。
「もう嫌だ! 俺は降りる!」
「お、置いていかないでくれぇ!」
後方にいた衛兵が逃亡し始めると、士気が崩壊した。
不利になるとわかるとあっけないものだった。
「待て!! どこへ行く!」
「うわぁぁーー!!」
雪崩を打って衛兵が我先に大広間から退散する。
勝負あった。残されたのは、倒れてうめく衛兵と私たちだけ。
「嘘よ、嘘……こんなの……」
ビアーサは呆然と大広間の片隅で震えていた。
アズールがつかつかと大広間を進む。
「どうやらもう終わりみたいだね。意外と根性がないなぁ」
衛兵の持っていた棒を手に取ると、アズールがつまらなさそうにそれをビアーサの足元へと投げつける。
どういう力で投げたのか、棒は無造作にビアーサの近くに突き刺さった。
「ひぃっ……!!」
「おとなしくしてろよ。君はお呼びじゃない」
アズールが殺気を込めて言い放つと、ビアーサが腰を抜かしてへたり込む。
そして彼はジョレノへと相対した。
「さて、と。これが最後の警告だ。今、非を認めれば許してあげないこともない」
「は、はぁ……っ!!」
「それに君にも理はある――確かに、これは家族の問題だ」
アズールが壮絶に笑った。
「なにせ、ソフィーはこのアズールの婚約者なんだからね」
「な、あっ……そ、そんな……!!」
「ようやくわかった? 未来のリディアル帝国皇妃に君は無礼の数々を働いたんだよ。婚約者として、許しがたいね」
実力行使でも道理でも負けたジョレノがへなへなと崩れ落ちた。
「そんなことは一言も……!」
「言ったら、のらりくらりと適当にやり過ごそうとしたでしょう」
「……う、うっ……」
指摘されたジョレノがうめく。
「あ、ぅ……このたびの無礼は、決して本意ではなく……」
「僕に言ってどうするの?」
ぴしゃりと言い放つアズールが私に振り返る。
君が言うべき相手はそっちだよ、と。
「君の生殺与奪を決めるのはソフィーだ」
「はぁっ、うぅっ……! ソ、ソフィー……」
ジョレノが情けなく這うように私の下へ近寄る。
顔は真っ青で、汗を流して情けない姿だった。
こんな父は初めて見る。
ちょっとだけスッキリした。
「ゆ、許してくれ! これは、不幸な行き違いなんだ……っ」
「本当にそう思うなら、しかるべき態度があるかと思いますけれど?」
「う、ぅ……はぁっ、心より謝罪いたします、これまでの無礼の数々……!!」
ジョレノは地面に這いつくばり、頭を下げた。
「どうか、どうか……お許し頂きたい!」
「……私に権利のあるものは全部、譲ってもらえますね?」
「もちろん! 錬金術関連だけじゃなくて、ポーションの利益も全て譲渡する!! だ、だからどうか……!!」
おお、ずいぶんあっさり譲ってきたな。
まぁ……所詮、この程度の人間か。
でも生半可なことで許すつもりは全然なかった。
それだけならアズールを引っ張り出す必要もない話だ。
こうなった以上、私も容赦しない。
「陛下もお聞きになられましたか」
「ああ、ちゃんと聞いた。ソフィーが正当な権利を有するものは全部、譲るってね」
「お父様もそれでよろしいですね?」
「に、二言はない! どうかそれで許してくれ……!!」
私は深呼吸をしてから、はっきりと申し渡した。
「いいでしょう。では、セリアス公爵の地位も領地も全て、今日この時から私のものです」
「――へ?」
「セリアス公爵の継承権も私にあります。そうですよね?」
もしジョレノが認知した子どもが他にいたら、こんなことにはなっていないだろう。
でもセリアス公爵家の嫡子は私だけで。
だからこそ、王子の婚約者になれたのだ。
私の権利は錬金術関連やポーションの利益どころじゃない。
「そ、それは……確かに、しかし……!!」
「王子と婚約破棄した以上、他国に嫁ごうとも私の継承権は残ります。ランデーリ王国の法ではそうなっているはずですが」
「リディアル帝国でも嫡子がひとりなら、そうだね」
「あ、ああっ……そ、そんな……!!」
ジョレノがばっと顔を上げる。
ようやく『私に権利のあるもの』の本質に思い至ったらしい。
最後に父を見据えながら、私は言い切った。
「セリアス公爵が命じます。ジョレノ・セリアス――愛人を連れて即刻、私の領地から出ていきなさい!」
ジョレノはそのまま顔を青くしたまま、うなだれた。
この場で反対などできるはずもなく。
父は全てを失ったのだ。
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