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12.かくして幕は上がる

「どうかお静かに!」

「おとなしくされれば、乱暴はいたしませぬ!」


 父の衛兵が口々に言いながら、私たちを取り囲む。


 ……リディアルの兵は動かない。

 その時まで、彼らは絶対に動かないよう私が命じている。

 

「あっけない、終わりだ。立て。地下牢に入って反省しろ」

「嫌です」


 はっきり断ると父がこめかみをひくつかせた。


「ちっ、痛い目を見ないとわからんか。おい、構わん。一発殴れ!」

「し、しかし……!!」

「セリアス公爵の命令が聞けんのか! いいからやれ!」


 先頭に立つ衛兵の手が震えている。

 顔に見覚えがある、彼が衛兵長だったはずだ。


 王子の婚約者に無理強いしようとしているのだから、恐怖から震えるのも無理はない。

 でも私は従う気は毛頭なかった。


「何をされようと、私は動かされません。私が動くのは、もう自分の意志だけです」

「うぅ……! 公爵の命ゆえ!!」


 衛兵長が叫びながら棒を私に叩きつけようとする。

 その一撃は遅くて、しっかり見えるくらいだ。狙いは肩か。


 もちろんこの私の座った姿勢で避ける術はない。

 

 木の棒と言えど直撃したら骨くらいは――だけど、棒が私に当たることはなかった。


 なぜならリディアルの兵のひとりが、空中で振り下ろされる棒を掴んだからだ。

 突然の介入に父が叫ぶ。


「なっ! 貴様、邪魔をするか!!」

「黙って見ていたら好き勝手にしやがって」


 棒を止めたリディアルの兵が衛兵を押しのけながら全身鎧の兜を外す。


 その鎧の中は誰あろう、リディアル帝国皇帝アズールだった。

 そう、彼には身分を隠したまま護衛として付き従ってもらっていたのだ。


 ……こうなってはしまったけれど。

 でも、これが私の筋書きだった。


 アズールが兜の中にまとめられていた髪を振りほどき、ばらばらと全身鎧を外す。

 鎧を外すごとに殺気がはっきりと形になるのを実感する。


 怒っていた。あのアズールが。

 

「――もう、構わないよね?」

「はい。約束通り、ここから先はお任せいたします」

「というわけで、僕のパートだ」


 アズールが首をこきりと鳴らす。

 ジョレノがわなわなと震えながらアズールを指差した。


「お前は、まさか……!! 皇帝アズール!?」

「そうさ。ふふっ、僕は君と会った記憶はないけれど知っていてくれたんだね」

「今回の騒動はお前の仕業か……っ!!」

「んー? どうかな、僕はむしろ巻き込まれてばっかりで。言われるがまま舞台に出てるだけなんだけど……この悲劇のさ」


 そこでアズールは周囲を見渡す。誰もがアズールの言葉に吞まれていた。

 この方面の才能は私じゃ全く敵わない。


「一部始終を聞いていたけど、ソフィーがおかしいこと言ってた? 無茶な要求はひとつもない。王都にいるランデーリ4世に持ち込まれたら、君は負けるよ」

「……それがどうした! 自分の家族をどうしようと勝手だ!」


 私は知っている。それはアズールの大嫌いな言葉だ。

 親である先帝さえも破って皇位に就いたアズールにとって……家族は特別な意味を持つ。


 アズールが口の端を上げる。

 彼も穏便な解決は無理だと判断したようだった。


「はぁ、聞く耳を持たないんだね。いいよ、ちょっとムカムカしてたところだ」


 アズールの身体の奥から魔力の波動が立ち昇るのを感じる。

 そしてアズールがジョレノへ向かい、優雅に手を差し出した。


「このままじゃ平行線だ。だから分かりやすく決めようじゃないか。最後に立っていたほうが勝ちってね。君が勝ったら、僕は全部を水に流して手を引こう」

「くっ……うぅ! その言葉に嘘はないな!!」

「ああ、皇帝の名に誓って。さぁ、どうする?」

「構わん、衛兵ども! 皇帝もろともソフィーを捕らえろ!!」

 

 正気とは思えない決断にビアーサがジョレノにすがりつく。


「まって、あなた! そんなことをしたら――」

「黙れ! ここまで来て、引けるか! かかれぇ!!」


 しかしさすがにジョレノの衛兵も動けない。

 固まり、互いに視線を交わすだけ。


 でもこうなったらもうアズールの独壇場だ。

 彼は自分の意志を通し切るまで止まらない。


「来なよ、皇帝が直々に踊ってあげよう」


 妖しい手招きに触発され、衛兵が吸い込まれる。

 いや、アズールから動いたのか。それさえもわからないほどの早業だった。


 素手のアズールは衛兵のひとりの腕を取ると、軽々と投げ飛ばしていた。

 投げられた衛兵が壁に激突し、昏倒する。


「ほらほら、ぼんやり立ってないで」


 風のようにするりとアズールは動きながら、次の衛兵の腕を取る。

 そのまま関節を極めて、蹴っ飛ばした。


「こんな機会、めったにないよ。僕と踊らないのかい?」


 アズールは笑っていた。

 ついに衛兵が反撃に出る。棒を振り下ろしたり、タックルを試みたり。


 全てが、全てが無駄だった。

 ひとりで騎士団を壊滅できるほど、というのは嘘じゃない。


 身体強化の魔術を施したアズールの動きは、人間のものじゃない。

 訳の分からない舞の中で衛兵が床に叩きつけられ、吹っ飛ばされていく。


(綺麗だ……)


 私は内心、こんな素晴らしい踊りを見たことがないと思った。

 それほどにアズールの動きは戦いではなく、ダンスそのものだった。

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