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10.帰ってくるはずのない娘【ジョレノ視点】

 空中船アラン=ウェズールがセリアス公爵領上空に停泊していた、まさにその頃。

 当のセリアス公爵家では大混乱が起きていた。


 広間から見える位置にアラン=ウェズールがいるのだから無理もない。

 リディアル帝国の旗艦を見たことのない者も多かったが、その威容はランデーリ王国にもしっかりと伝わっている。


「なぜ、あの帝国の旗艦が我が領地に居座るのだ!」


 ソフィーの父、ジョレノは苛立ちながら机を叩いた。


「何も聞いていないぞ! 王都から連絡は!?」

「……まだ何もございません」


 使用人のひとりがびくびくしながら答える。

 ジョレノはソフィーがいなくなってからの一年で太った贅肉を揺らしながら、ゴブレットのワインを仰いだ。


 昼間から続く酒宴に水を差され、ジョレノは大いに気分を害していた。

 

「セリアス公爵領はリディアル帝国の首都と王都とを結ぶ直線にはないはず……一体、何の用だ」

「……もしかしてポーションを求めてのことではないかしら」


 ジョレノの愛人、ビアーサが答えた。

 たっぷりの化粧と香水を愛用する彼女がジョレノにもたれかかる。


「なぜだ、ウチにもうポーションを作れる奴はいないぞ」

「でもあのリディアル帝国なら、セリアス公爵に目をつけてもおかしくないわ」

「ふむ……確かに。フィリス殿下は、リディアル帝国にポーションを凄まじい高値で売りつけているそうだからな」

「まぁ、本当?」

「わははっ!! 高純度のポーション作りには繊細な魔力がいる。獣人どもは手先は器用だが、魔力を持たないものが多い。ポーションの確保は死活問題、とんでもない値段を吹っかけても買ってくれている!」

「うふふ、だからこの一年、とっても景気がいいのね」

「ああ、殿下との約束だからな――俺の娘が作ったポーションの利益の2割。10年は遊んで暮らせる大金が転がり込んできた」


 ジョレノが機嫌を戻してワインを飲む。

 このワインも新築の屋敷も、全部がソフィーを売った金とその後のマージンから出たものだ。

 

「……にしても、嫌な予感がするな。何時間もあそこにいて、何を考えている」

「それなら衛兵を待機させておいてはどうかしら。いざっていう時にモノを言うのは武力じゃなくて?」

「そうだな、ふん……こちらの背後にはフィリス王子もいるんだ。名門のセリアス家が一歩も引いてなるものか!」


 そして、夕方。

 アラン=ウェズールから一隻の小型船が降りてきた。


「来たようだな。仕方ない、出迎えてやるか」


 その様子を窓越しに確認したジョレノは衛兵を伴って屋敷の前でリディアル帝国の使者を迎えることにした。

 小型船がゆっくりと屋敷の前に着地する。


「……誰が来るのやら」


 酔いが回ってきているジョレノが酒臭い息を吐く。

 だが、その酔いは一気に醒めてしまった。


「なっ、お前……!?」

「お久し振りですわ、お父様」


 全身鎧を身につけたリディアル帝国の騎士に守られながら降り立ったのは、ソフィーであった。


 美しく着飾ったソフィーは一年前より痩せて見えたが、そんなことはジョレノにとってはどうでも良かった。


 王子は絶対にソフィーを表に出さない、そう言っていたはずだ。

 それが……なぜ、ここにいるのか。


「ど、どど……!!」

「どうして私がリディアル帝国の船に乗って、ここに戻ってきたのか……ですか? それについては中に入ってから説明いたします」

「……わかった。ついてこい」


 ジョレノが雑に腕を振り、屋敷の中にソフィーとリディアルの兵を入れる。

 何かがおかしい。


 王子がソフィーを手放すはずがない。

 万が一、ソフィーをリディアルに売ったとしても、自分に一報もないのはあり得ない。


 何かが起きたのだ。


(いざという時は……)


 ソフィーの連れている兵はたったの三人。

 大した数ではない、とジョレノは判断した。


 この時、ジョレノはまだ気が付いていなかった。

 ソフィーの心中が怒りに渦巻いていたことを。

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