隙間バイトアプリにダンジョン配信案件ありました~前職のブラック労働に比べれば簡単なのでサクサク処理しただけなのに、強制配信されたらバズっちゃいました?!
「これで登録は完了だよな? よし、早速、隙間バイトを──」
俺は、スマホ画面をスクロールさせていく。
並ぶのは様々な隙間バイトの募集だ。
いま話題の隙間バイトアプリ、スキミー。
それが、今の俺の、最後の希望だった。
就職難ながらに、なんとか非正規として潜り込んで働き続けた会社。それが、先日あえなく倒産してしまったのだ。
「まあ、上がらない手取りに、終わらないブラック労働の日々が、ようやく終わった、とも言えるけどな……」
そんな慰めにもならない独り言を呟く俺。そのスマホを操作する手が止まる。
「なんだ、これ……」
独り言が止まらない。
独り暮らしで仕事の時以外は家でスマホを見て過ごす、うん十年の生活で独り言がすっかり癖になっていた。
俺は改めてスマホ画面を確認するが、その募集は見間違いではないようだった。ただ、調べたスキミーの口コミによると、基本的に募集は早い者勝ち、らしい。
なので普通は、人気の仕事というのはあっという間に求人から消えてしまうそうだ。
それなのに、俺が覗き込むスマホ画面には、他とは一線を画すぐらいの破格の報酬が記載された募集が、しっかりと載っていた。
「『職種:軽作業。屋内での簡単な軽作業業務をお願いします。 未経験OK』え、これだけ?」
記載内容の少なさに、思わず警戒心がわく。
「条件とかは──あ、これか。なになに? 結構あるな」
俺は次のページに記載されていた募集条件を目でおっていく。
「『コツコツ同じ作業が苦にならない方』まあ、軽作業は基本そんなイメージだよな。これは大丈夫」
うん十年のブラック労働で鍛えたメンタルは単純作業なら楽勝という自信はあった。
「次は──『即日勤務可能な方』──なんの予定もないしな。すぐでも、全然大丈夫。それと……『作業内容が遠隔からの指示となるため、作業が撮影されます』う、うーん。急に、きな臭くなってきたな。明らかに危険な作業だろ、これ。本当に軽作業なのか?」
俺は少し不安になりながらもスマホの操作を続ける。
「『年齢三十五歳以上の方を優遇』──だと? いや、俺は年齢的には、ばっちりだけどさ。この書き方はどうなの? もうちょっとこう、別の表現にすべきじゃない?」
思わず逆に心配してしまう。
「でも、報酬はすごいんだよな……時給だけでも破格なのに、プラス成果報酬もあるとか。こんな好条件、他には一切見当たらない。それに、確か応募しても審査があるらしいから……よし、ダメもとで申し込みだけ──」
俺は結局、迂闊にも応募してしまう。破格の報酬に目が眩んだと言われれば、まったく否めない。さらに、無職という不安がそれをおおいに後押ししていた。
俺は追加で求められた本人確認書類をスマホで登録する。
「これで1日程度で結果がくるのか……あ、一応業務マニュアルがある。う、うーん?」
載っていたマニュアルに記載されているのは、撮影用ドローンの操作や、無線を使っての遠隔からの指示を受けるやり方だった。
「確かに、募集条件にあったよな。おかしくは無いんだが──。普通はマニュアルって、メインの業務からだろ。こういうのは補足事項に載せておけば十分じゃあ──」
俺がマニュアルを作ったはずの雇い主の仕事のスキルに不安を覚えているときだった。
スマホがメールの受信を告げる。
「──もう、審査の結果きた! うお、採用だ!」
どんなものでも採用されると言うのは嬉しい。それが、少々怪しくても破格の報酬が約束されている仕事なら、なおさらだ。
そうやってメールを読みながら最後までスマホ画面をスクロールさせたときだった。
突然、スマホ画面が眩しく光り出す。
「うわっ……」
ふっと、意識が遠のいていった。
◆◇
「あたた、なんだったんだ……あれ、ここは」
家でスマホを見ていた姿勢のまま、気がつけば俺は真っ白な部屋にいた。
片手には操作中のスマホを持ったまま。
「これは、ドローン……?」
俺以外、何もないと思った部屋に、ポツンとおいてあるドローン。マニュアルにあった撮影用だろう。そしてその隣には耳にはめるタイプの小型の無線機らしきもの。
ブルル。
スマホがメールの受信を告げて震える。
「っ!」
驚きのあまり思わず体がこわばる。
「ビックリしたー。ここ、どこかはわからないけど電波はあるのか」
ドローンも気になるが、俺は先にメールを確認することにする。
「『この度は弊社の応募にお申し込み頂きありがとうございます。厳格な審査の結果、採用となりました千軒一様を早速、職場となるダンジョンへと転移させていただきました』」
そこまで読み上げたところで、思わずスマホから目を離して俺は周囲を改めて見回してしまう。
「確かに即日勤務は可能だけどさ。そういうことじゃないんだが……そして、ダンジョンに、転移っ!? なんだそのファンタジーなフレーズはっ」
俺だって、その手の単語に多少の知識はある。どちらかと言えば無料で読めるWebファンタジー小説やそれ系のアニメは、人並み以上に嗜んでいる自覚はあった。
──スマホゲームは課金が怖いからな……ブラック労働の少ない余暇を費やすのはどうしてもこっち系になりやすいんだよ……って、現実逃避している場合じゃないか。
それはスマホに意識を集中する。
ここが本当にダンジョンであるなら、例のあれがいつでてもおかしくない。
そう、モンスターだ。
「最初にドローンをマニュアルにそって起動、設定ね。はいはい」
俺は事前にマニュアルに目を通していたのでさくさくと済ませる。とりあえず目の前にやることを提示されたら済ませてしまいたくなるのだ。
「次は……なんだ債権システムって──」
スマホの画面が勝手に変化する。
そこにずらずらと書かれていたのは俺の一種の経歴のようなもの、だった。
「『就職難30p、非正規雇用20p、低賃金15p、長時間労働15p、所属会社の倒産5p、無職5p、合計90p』」
それぞれによくわからない数字がふられている。
「債権システムってことは、なんかの貸しってことだよな? 説明は……なしか。うーん普通に考えて、俺の人生の債権的な感じ、なのかな。貸しの相手がよくわからないが。まあ倒産と無職のポイントがやけに少ないのは、ブラック企業でそこから抜け出せたってことで低めなんだろうな……」
思わず自嘲気味に呟いてしまう。これがホワイトで手取りのいい会社で働いていたら、倒産と無職の数字がもっと高かったんだろうな、と想像してしまったのだ。
考えても仕方ないかと、俺はスマホの文面の続きを読む。
「『債権90p。これが千軒一様の人生における債権となります。このポイント数とその内容により、千軒一様の人生の債権が【カタチ】となります。それは武具やスキルなど様々な【カタチ】をとります。【カタチ】を顕在化するのに下記の文言をお読み上げください』」
なんだかさらにファンタジー色が強くなったなーと文言とやらに目を通す。
「──スキルとか、本当にゲームファンタジーっぽい……。いやそれにしても、これ言うのか。普通に恥ずかしいんだが。はぁ、まあとりあえずここがダンジョンで、この恥ずかしい文言を言うと戦う力が手にはいると。で、それでモンスターと戦うんだろな。だとすれば、恥ずかしがっている場合じゃないか」
俺は何だかんだで、現状を受け入れてしまう。これまでさんざん理不尽な仕事をしてきたので、この程度の恥ずかしいことには、耐性が出来ているのだ。
「せめて、この90pてのが低い方で、恥ずかしい文言を言わせて、結果がショボいとかやめてくれよ、はぁ。……『我は時をたゆたう灯火の光。そを囲む闇へ投げ掛けし光の対価を求める者なり。いまここに力として示せ。開源』」
俺が読み上げた声が虚空へ消えていく。
何も起きない。
──え、うそだろ。この年になって、こんなこと言わせといて、何も起きないとか? もしかしてドッキリ!?
俺が疑いかけたその時だった。気がつけば片手が重い。
ふと見ると、右手に何かを握っていた。
捻れて、傷だらけ。色もくすみ、冴えない持ち手。しかし不思議と、どこか禍々しい恐ろしさを感じさせるもの。
俺は試しにそのまま片手でそれを振り回してみる。
すると先程までの重さが嘘のように自由自在にそれを取り回し出来る。
そればかりか、ビュンビュンという風を切る音がどんどんと鋭くなっていく。
「めちゃくちゃ手に馴染むけど……俺の人生の苦労が、何かの棒とか……笑うしかないだろ。……はぁ」
俺は右手に握った謎の材質でできた棒を眺めながらため息をつくのだった。
◆◇
あのあと、無事にネットに繋がっているスマホで確認したところ、俺が人生の債権の対価として手にしたものはいわゆる、こん棒の一種のようだった。
持ち手は俺が握りやすいサイズで、敵を殴るであろう部分は俺の太ももよりも太いぐらいの不恰好な、棒。
材質は木よりは重いが、鉄ほどでは無さそうな謎の物質。重心の位置がちょうど良いのか、絶妙に取り回しがしやすい。
俺は理不尽な現実を、ため息を一つついて受け流すいつもの仕草で諦めると、最後に床に残っていた耳にはめるタイプの無線機っぽいものを左耳につける。
「っぅ!」
急に流れてきた無機質な声に思わず声を上げかけてしまう。
『──部屋を出て下さい部屋を出て下さい部屋を出て下さい部屋を出て下さい──』
どうやらイヤホンからは機械音声が絶えず流れ出てるようだった。それほど大きな声ではないが、ちょっと鬱陶しい。しかしバイト中は外さないようにと、マニュアルにも書かれていた。
なので、俺はスマホをしまうと、そのまま言われたとおり部屋を出ようとドアへと向かう。その後ろには起動したドローンが追随してくる。
「出入口はここだけだから、ここから出ろってことだろうな」
俺は右手に持ったこん棒を改めて握りしめると、そっとドアをあける。
すると、そこには俺がいるのと同じくらいの大きさの部屋。
そしてその新しい部屋のなかには、みっちりと何かの生き物がつまっていた。
「うわっ!」
『──叩いて下さい叩いて下さい叩いて下さい叩いて下さい叩いて下さい──』
思わず上げる驚きの声。耳元に流れる機械音声の内容が、変わる。
その声の内容が俺の頭へと理解される前に俺は本能的に手にしていたこん棒を、ドアを開けてすぐのところにいた「それ」へと叩きつけていた。
手に伝わってくる、ぐにゃっとした感触。
それは、なんとなく想像したものよりも、かなり柔らかった。
初めての感触。
強いていえば、水が入った皮袋を叩いたような感じ。
俺が叩き潰したそれを、改めて視覚がとらえる。
「それ」は、もとは人型のようで、俺の腰ぐらいの背丈。俺が潰したことで、それが七割ぐらいにまで縮んでいる。
「それ」の身体中の穴という穴からは青緑色の液体が飛び散り、その一部は俺の頬にまでかかっていた。
普段であれば、汚さに嫌悪感が沸くはずだが、あまり気にならない。
──これって、いわゆるゴブリン、か?
そんな感想がようやく俺の頭に浮かぶ。しかしゆっくりと考えている暇はなかった。
叩き潰したゴブリンらしき存在が煙のように消えると空いた隙間にすぐ近くの別のゴブリンが入り込んでくる。
そう、ちょうど俺の目の前に。
俺は慌てて、改めて振りかぶったこん棒をその新しく現れたゴブリンへと振り下ろす。
今度のこん棒の振り下ろしは、そのゴブリンの頭を捉えるのは失敗する。しかし、肩へと直撃すると、まるで風車のようにそのゴブリンの体がくるりと横に回転する。
「ぷぎゃーっ!」
どこかコミカルな叫び声を上げて回転しながら地面に叩きつけられたゴブリンが、そのままやはり煙のように消える。
「ぷっ……くくっ」
こんな場面なのに、いや、こんな場面だからこそ、その鳴き声と意表をつかれた死に様に、俺は笑いが込み上げて来てしまう。
自分でも、こんなときに笑うなんて悪趣味だなーと、思わずにはいられない。
しかも、思い返してみれば、ブラックな前職で働き始めてから、まともに笑ったことがないのだ。
「くくっ、はは、あはは……あは」
押さえようとしても、どうしても笑いが止まらない。
先程から、俺のいる部屋とゴブリンの詰まった部屋を繋ぐドアのところへと、次々とゴブリンが来ている。それを、俺は振りかぶったこん棒で何匹も何匹も叩き潰し続けているのだが、その間も笑いが止まらなかった。
いつしか、笑いを抑えるのも馬鹿らしくなってくる。
──悪趣味だけど、おさまらない……。それに聞かれたっていいか。どうせすべてこうやって叩き殺すんだし。
いつしか吹っ切れた俺は、高らかに笑いながら、ゴブリンをこん棒で潰していた。
これまでに感じたことのない爽快感。
ゴブリンの潰れる音と、時たま上がるゴブリンのコミカルな叫び声がテンポよく部屋に響き、それがまた、一層可笑しくなってくる。
──このスキミーの仕事、楽しいかも……
初めてと言っていい、そんな感想を抱きながら、俺はただひたすらに目の前に現れ続けるゴブリンへと向かってこん棒を振り下ろし続けるのだった。
その様子をじっと撮影するドローン。その動画は何者かの手によって、世界へと向けて配信されていたのだった。
◇◆
【side 機械音声】
その日、世界中のありとあらゆるスピーカー機能を有する機器から、突然、機械音声が流れ始めた。
主要言語が設定されている機械からは、その設定された言語で。
設定がなされていないものからは英語で。
ただ、どの機械音声も内容は同一だった。
『──只今より人類に告げます。只今より人類に告げます。変化の時が来ました。世界にダンジョンが生まれます。ダンジョンにはモンスターが生まれます。モンスターはダンジョンを出て人を襲います。繰り返します──』
世界中で何度も何度も繰り返されるその機械音声。最初は何かのいたずらか何かと思っていた人々は各々その音声を止めようと試みる。
あるものはスマホの電源を切り。
あるものはパソコンのコードを抜き。
うるさいとばかりにラジオを叩き壊す者もいた。
しかしどうあっても、音声は止まらなかった。電源も入っておらず、スタンドアローンの機器からですら、スピーカーさえあれば止まらずに流れ続けるその機械音声。人智を越えた原理によって流れ出るその声に、やがて人々は否応なく耳を傾け始める。
そうして、徐々に耳を傾ける人が増えたところで、流れる機械音声の内容が変わる。
『ダンジョンへサンプルを招きました。有志の方々です。ダンジョンの姿を彼らを通してご覧ください。動画配信のURLは──。繰り返します──』
そうして、今度は何度も何度もURLが繰り返される。
すでにこの時には機械音声が尋常の存在ではないと認識した多くの人々が、そのURLにアクセスを試みる。
すると表示されたのは個人作成のブログのような簡易的なホームページ。ホームページ上部には『ダンジョンの窓』という、センスのない文字。
そこに表示される、合計二十の動画欄。
映っているのは年齢も性別もバラバラの男女二十名。
一つの動画欄に一人。
みな、似たような部屋に居て、ドローンカメラによって撮影されていた。
そしてそのなかに、千軒一の姿もあった。
そこで『ダンジョンの窓』のページに変化が現れる。一人のサンプルの動画枠が拡大されると、カメラがそこに映る若い女性へと寄っていく。
スマホ画面を見ながら、どこか嫌そうにそのスマホに記された文字を読み上げる女性。それは千軒一も読み上げた債権を「カタチ」へと変える文言。
機械音声がまるで実況するかのようにその様子を伝える。
『サンプル一。年齢19歳。女性です。債権により獲得した「カタチ」はスキル「憤怒の手」。怒りを乗せた張り手は岩をも砕きます』
その女性の動画が止まり、次に、同じ様に別の人物がピックアップされる。
『サンプル二。年齢28歳。男性です。債権により獲得した「カタチ」は防具「映し身の盾」。自らの幻影を投影する盾です』
そうして、機械音声が淡々と千軒一と同じ様にスキミーにてバイトに応募し、ダンジョンへと転移させられたサンプルたちの紹介をしていく。
『サンプル二十。年齢38歳。男性です。債権により獲得した「カタチ」は武具「社畜の棍」。疲れることのない労働を約束します』
最後に千軒一の紹介が済むと、今度は一斉に二十人全員の動画が再生可能となる。
数多の人々の注目を集めていた『ダンジョンの窓』のページ。それを閲覧していた数多の人々はそれぞれの興味の赴くままに、二十人のサンプルたちの中から選んで、流れる動画を食い入るように見始める。
『現在の同接人数一位はサンプル一。同接人数二位はサンプル十三──』
まるで煽るかのように告げる機械音声。
その声に、すでに多くの人が視聴している動画へと他の人々も集っていく。
それと同時に、コメント欄も解放される。
〈サンプル一ちゃん、かわゆす〉
〈最初の20人のなかでは一番だな〉
〈サンプル二十とか、誰も見ないだろうな〉
〈というかこれって本当にドッキリとかフェイクじゃないのか〉
〈それは音声さんにきけよ。返事があるとは思えないがな〉
〈電源が入ってない機器から音声を流せる奴だからなー。フェイクだとしてもクオリティはすごいよな〉
〈おいおい、みな順応早いな。お、サンプル一がドアを開けるぞ〉
〈うげ〉
〈うわー。グロ〉
〈これ、レーティングどころか、モザイクも無いの?〉
〈今、来たんだが……なにこれ?〉
〈ドアを開けたらゴブリンらしきモンスターがみっちりいて、驚いて固まったサンプル一ちゃんが惨殺されたところ〉
〈え、これって遺体……うげ、〉
〈おい、ほかのサンプルたちもどんどんやられているぞ〉
〈とんだ死にゲーだろ〉
〈ゲームじゃないがな。ただ難易度が激高なのは異論ない〉
〈最初の数匹を倒しても次々に襲ってくるのに対応しきれなくなるのか〉
〈おい、サンプル二十だけ生きてるぞ〉
〈なに、あ、本当だ〉
視聴が分散していた人々が、唯一生き残っているサンプル二十──千軒一の動画に集まり始める。
世界中から集まった視聴者が、今や唯一生き残っている千軒一の一挙一動を見守っていた。
〈え、なに、こいつ〉
〈何で棍棒振りながら笑ってるんだ?〉
〈これはこれでグロいな……〉
〈見てられない奴はさっさと離脱しろよ〉
〈そうだな。それがいい〉
〈お前らは大丈夫なのか、このグロ動画〉
〈目をそらしても仕方ないだろ。音声さんも言ってただろ?〉
〈何か言ってたっけ?〉
〈おいおい。モンスターはダンジョンから出てくるって言ってただろ。つまり、これからの世界は、こうなるってことだ〉
〈にしてもこのサンプル二十、すごくない?〉
〈ああ、さっきからどれだけのゴブリンを倒してるんだ、こいつ〉
〈高笑いしながらゴブリンを倒すサンプル二十が、なんだか格好よく見えてきたんだが……〉
〈俺もだ……〉
〈ああ。お、ついに最後の一匹!〉
〈サンプル二十、生き残りやがった。すげぇ〉
そこで、機械音声の声が再び世界に響きわたる。
『同接一位はサンプル二十。これにて動画の配信を終了いたします。今後は随時スキミーにてダンジョンへの挑戦を募集し配信となります。繰り返します──』
◆◇
「あれ、俺の部屋だ」
先ほどまでダンジョンでゴブリンを倒していた俺は自分の部屋に戻ってきていた。
右手に握っていた棍棒も消えている。
試しに例の恥ずかしい文言を言ってみるが、何も起きない。
「夢……じゃないな」
青緑に染まった服を見下ろして、その可能性はすぐに否定する。
「あ、給料!」
俺は慌ててスマホを操作する。一応、ちゃんと仕事はしたつもりだ。あれが、スキミーの募集に記載されていた軽作業かと言われれば疑問はあるが。
「お、おおっ! しっかり振り込まれてる。うわ、成果報酬すげえ……」
指定の口座に振り込まれていた金額に歓喜の声をあげる。それは、前職のブラック会社の一月分の給料を軽く越えていた。
その金額に小躍りする俺は、自分が高笑いしながらゴブリンを倒す動画が世界中で視聴されたことに、この時はまだ気づいていなかった。
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