95話 別行動
「これからの計画を練るぞ」
俺たちはこれからのケルンでの行動を決めるため早朝から集まった。
「シェパードが昨日情報を集めてくれたが、想像よりこの街の人間族は少ないということが分かった。俺たちが怪しまれずにこの街で活動する方法だが、傭兵として活動することが最善だろう」
「私もそれは賛成。冒険者落ちの傭兵なんてザラにいるし、この街でも戦力は必要してるはずだからね」
「だが俺のような錬金術師は傭兵として活動するのは厳しいぞ?」
「あぁ、だからこの隊を二つに分けようと思う。傭兵として侵入する班と、この街で隠密的に行動して情報を集める班だ。傭兵班は隊長の俺とグラジオ、リール。隠密班はシェパード、アンバー、ジェイルだ」
「シェパードは隠密班なのか?あいつの戦闘能力なら傭兵班の方が向いてないか?」
「シェパードには二人の護衛の意味も込めて隠密班に加わってもらう」
「そういうことなら納得だ。早速行動を開始するか?」
「そうだな。シェパード、そっちの班のことは頼んだ。3日後にこの宿で再び情報を照らし合わそう」
「上手に潜入してくださいよ」
「任せとけ!」
隊長は二人を引き連れて宿を出て行った。
「それで俺たち隠密班はどうやって行動する?」
「わ、私にできることなんてあるんでしょうか?」
「二人の力こそこの班には必要なものだ。ジェイル、この前の透明化の魔道具をまた作ることはできるか?」
使用した透明化の魔道具はすでに壊れてしまっている。
「手元の材料だけだと…一つだけ足りないものがあるな。スライムの核が足りないんだが、そうそう市場に出るようなものでも無い」
「スライムの核を手に入れるのは大変ですからね…」
「スライムってそんな強敵なのか?」
「そうかお前はこの世界について詳しく知らないんだったな。スライムというのは形を自在に変化させる魔物で基本的に物理攻撃は通じない。逆に魔法の耐性は全くと言っていいほどなく、どんなに弱い魔法でもすぐに消滅してしまう。つまり倒すだけなら簡単だが、核を取り出すのは大変だということだ。専門のスライムハンターがいるくらいにはな」
「その核が透明化の魔道具には必要なんだな…今回は透明化に頼らず行動するしか無いか」
「でもそれだとかなり再現されますよね」
「手に入らないことは無いかもしれない。こう言った街には闇市場というのがある可能性が高い。最前線の街なんて決して治安がいいとは言えないからな。そう言った場所ならスライムの核を売っている可能性がある」
「なら、最初の任務は闇市場を見つけることだな」
「そうだな、俺は透明化の魔道具以外にも使えそうな魔道具を作っておく」
「分かった。闇市場は俺とアンバーで探すことにするよ」
「頑張ります!」
俺とアンバーは顔が見えないような格好に着替えて宿を出た。
「予想通りだが、人気はあまり無いな…」
街中は荒れているわけでは無いが人が少なく寂しい雰囲気が漂っていた。
俺たちは街の本通りを避けるように裏路地を移動する。
「もともと人間族の街だったとは思えないほど獣人族が多いですね」
本通りには獣人族の戦士が多く歩いている。
少しだが人間族の傭兵の姿と、エルフ族見える。
(獣人族の中にも色々な種族がいるみたいだな…)
耳の形からだが、犬の獣人族や猫の獣人族などがいることがわかる。
俺たちは裏路地を移動しながら闇市場がありそうな場所を探したがそれらしいものは見つけられなかった。
「街中すべてを探せたわけではないが、それらしい場所は見つけられなかったな」
「そうですね。この街にはもしかしたら闇市場自体がないのかもしれませんね。あと探してないとしたら…」
アンバーは地面に向かって指を指した。
「地下ですね」
「アンバーの魔法を使えば地下に向かうことはできるか?」
「潜ることだけならできますが、そもそもちょうど真下に空間がある保証がないので…」
「そりゃそうだよな。だが地下か…確かめる必要はあるな」
俺たちはそれから地下に繋がっていそうな場所を探した。
「可能性があるとしたらここですね」
俺たちが見つけた地下への道はたった一つだけ、下水道だ。
「ここを辿っていけば街の地下につながる可能性があります」
「あまり気乗りしないが、行くしかねぇか」
俺はどことなく行きたくない気持ちがあったが、闇市場を見つけるため仕方なく下水道に足を踏み入れた。
「気をつけてください、こう言った場所にはたまに魔物が生息していることがありますので」
下水道は暗く湿度が高い。
(こういう場所には…)
「キャー!」
俺の予想通り下水道の脇道からネズミが現れた。
だがそのネズミは俺が知っているものとは全く異なっていた。
「で、デカすぎじゃないか…」
体長1メートルはあるだろうネズミがこちらに向かってきている。
「あれは魔物です!」
腰が抜けながらもアンバーが叫んでいる。
ネズミは鋭いを見せつけながらアンバーに迫っている。
俺はすぐに腰の短剣を抜いてアンバーの前に立ち、ネズミを切り伏せた。
だがネズミは一匹だけではなかった。
反対側からもネズミが襲ってきた。
俺はすぐに逆の手でもう一つの短剣を抜いてネズミを切り伏せた。
「す、すごい…二つの剣を同時にそんな器用に操るなんて」
俺は今槍をメインに使っているが、他の武器も一通り使える。
二刀流での戦い方も前にゲームでやったことがある。
(それにしても、体に二刀流が馴染んだな。久しぶりにこの戦い方をするはずなのに…)
「魔物がまた出てくるかもしれません。気をつけて先に進みましょう」
「そうですね」
俺の手を取ってアンバーは立ち上がり、怪我をしてないことを確認すると、下水道を先に進んだ。