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94話 宿

「…ここまでくれば大丈夫か?」

俺たちは透明化の魔道具を使ってケルンを囲む壁まで辿り着いた。

壁の上には所々見張りの兵がいるようで気付かれないか心配だったが、魔道具のおかげで無事に辿り着くことができた。

「あとは私に任せてください」

アンバーが壁に向かって杖を構えると少しずつ壁の形が変化し始めた。

そして人が一人倒れるだけの穴が空いた。

俺たちはすぐにその穴を使いケルンの中に侵入した。

(ここがケルンか…)

穴を通り抜けた先には街が広がっていた。

「近くに人の気配はない、とりあえず身を隠せる場所を探すぞ」

グラジオが気配を確認し、リールが先頭になって街を進んだ。

真夜中ということもあって周囲に人影は無い。

時々見回りの兵も見かけるが、事前にグラジオが気配を察知しているため、見つかることは無い。

(気配を探るのが得意と言っていたが、すごいな。この技術が天才剣士と言われる所以なのだろうか…)

「やっぱ私の予想通りだわ」

俺たちがリールに案内された場所は、廃れた宿のような場所だった。

「ここは冒険者協会直営の宿、冒険者協会が廃れた今どうなってるかと思ってきてみれば、予想通りボロボロね」

(確かに…)

目の前の建物はお世辞にもまた宿とは思えないほど荒れていた。

「こういうところはね、ある程度の荒くれ者でも止めてくれるはずよ!」

俺たちはリールの提案に従って建物へと入った。

「…なんのようだ」

カウンターのような場所で男性が酒瓶片手にこっちを睨んでいる。

「客に対してその態度は失礼なんじゃ無いの?」

「ここに客なんてこねーよ。来るのは冷やかしか借金の取り立てだけだ」

「俺たちは今日泊まる場所を探していて、泊めてもらうことってできますか?」

「ちっ、訳ありか。好きに使ってくれ、料金は前払いで頼むぜ」

俺たちは宿代を渡すと部屋の方へ向かった。

「悪い先に行っててくれ。俺はあの人にいくつか質問してから向かう」

「分かった。だが気をつけろよ…」

俺はこっちの行動を不審に思われるなと忠告され、カウンターの男性に質問をしに向かった。

「なんだまだ部屋に入ってなかったのか…」

「いくつか聞きたいことがあってな」

「俺は相談屋じゃ無いんだ」

「これでいいか?」

俺は男の目の前にいくらか金を積んだ。

「…まあ少しばかりなら聞いてやろう」

「この宿は冒険者協会が衰退した影響でこんな経営難に陥ってるのか?」

「そうだ、見りゃ分かるだろ。この街は今獣人族がほぼ支配してる。俺たちのような元ケルンの住民はほとんど残って無い。種族間の争いなんて馬鹿馬鹿しいことやってるから、こんな世になってるんだ。話を聞く限りじゃあ、獣人族の女王はこんな争いを望まなかったなんて聞いたが…」

「冒険者協会は、獣人族の国ではまだ存続していると聞いたが、ここは違うのか?」

「確かに、存続してる場所もある。だがここは最前線ケルンだ。ここで戦ってるのは同胞を、友を敵に殺された奴だ。そんな奴らが人間族のやってる場所なんかに来るかよ」

「そういうことか…だがケルンの住民はそれでもこの国に残り続けたんだろ?」

「お前たちの事情は知らないが、それ以上首を突っ込まない方がいい。どうせ雇われの傭兵かなんかだろ?確かに俺たちはこの争いで獣人族についたが、その理由まではお前が知る必要がないはずだ」

「…そうだな。色々と聞けて良かったよ」

俺は腰を上げ部屋に向かって歩き出した。

「ちっ、めんどくさい奴だ……おい待て!お前は、いやあなたは!?」

俺が歩き出したところでカウンターの男性に呼び止められた。

「どうかしましたか?」

「……気のせいか、どうやら悪酔いしたようだ。…一つだけ教えといてやる。俺たちケルンの住民が獣人族側につき、ここに残ろうとしたのはある人を待っているからだ。それ以上話すことは無い。さっさっと部屋にいけ!」

俺は追い出されるように部屋に向かった。


「戻ったか、それで何かわかったか?」

部屋は男と女で分かれている。

つまり俺たち男は一部屋に四人で寝ることになる。

非常にむさ苦しい空間だ。

「そんなに多くの情報は得れなかったがな」

俺はさっき聞いた話を簡潔に伝えた。

「ケルンの元住民が待っているのは、噂に聞く勇者じゃ無いか?」

「勇者か…それなら俺も聞いたことがある。だが実在したのかもわからない噂だぞ?」

「候補に入れとくぐらいにしとけばいい。それよりだ、想定より人間族が少ない可能性がある。普通に住民として紛れる作戦は上手く行かなそうだな」

「俺はさっき、あの男性に雇われ傭兵に間違われた。つまりこの街には雇われの傭兵がいるはずだ。それに上手く紛れることができれば…」

「とりあえず明るくなって人の動きが活発になるまではなんとも言えないな…とりあえず今日は寝るとするか」

「…誰がベットを使う?」

部屋にはベットが二つしかない。

残りは床だ。

「仕方ないここはじゃんけんだ。じゃんけん…」

結果は俺と隊長が床に寝ることになった。

(明日もこの宿に泊まるなら、交代だな…)

俺はそんなことを思いながら固い床の上で眠りについた。


「懐かしい気配を感じてみれば…」

俺の目の前でこちらに話しかけている誰かがいる。

「だけど今の君は僕が知ってる君じゃないみたいだ。また会えるのを楽しみにしてるよ…」

(一体誰なんだ俺に話しかけてくるのは!)


俺の夢はそこで途切れた。

「うっ、寒!誰だよ窓なんて開けたの…」

俺は部屋の窓が空いていることに気がつき、寝ている人を起こさないようにそっと閉めた。

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