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91話 報告

「お前が噂の奴か」

今俺の目の前にはとても厳つい男性がいる。

2メートル近くの身長、鎧の上からでもわかるほどの鍛えられた筋肉、そして顔に無数につけられている古傷。

「どんなやつかと思ったが、なかなか男前じゃないか!」

だがその男性は親の予想とは違う反応を見せた。

「ありがとうございます」

(そういえば俺も顔にでかい古傷ができたんだったな…)

「俺はシェパードって言います」

隊長をチラ見するが、反応せずにいてくれている。

「俺はジェイソンだ。ケルンでの総責任者を務めている。まずはなぜお前たち二人だけでここに来たか教えてくれるか?」

俺の名前はどうやら伝わっていないようだ。

もしかしたら、ジェイソンさんが俺に合わせてくれたのかもしれない。

「それについては私から説明します」

隊長が前に出て話し始めた。

(あんな真面目な隊長初めて見るな…)

いつもの適当な感じと違う真面目な表情に新鮮さを感じた。

「そういうわけで、俺たち二人しか生き残れませんでした」

隊長はナガオ村のことは伝えず、魔族に遭遇し壊滅したことだけを伝えた。

「なるほど、まさか魔族と戦闘があったとは…奴ら仕掛けてきやがったな。実績のある遊撃隊が壊滅するとはな。影を移動する能力の魔族はこのケルンで有名な奴だ。少なくない数の犠牲者を出しているネームドだな」

「ネームド?」

「魔族は自身の名を名乗ることがないからな。そもそも名があるのかすら怪しい。だから俺たちは危険な魔族に対して名前をつけている。そいつらのことをネームドと呼ぶ。お前らが遭遇した影を移動する魔族は、『シャドウ』として知られている魔族だ」

「では、魔物を操る魔族も名前があるのですか?」

「いや、その魔族は初耳だな。だがその能力からして、前線に出るタイプではないからな。今までの魔物被害はそいつが起こしたものという可能性もある。非常に危険な魔族だ。今すぐ名前をつけて警戒するように伝えるぞ!」

「あのー、」

「どうした?なるほど、お前自身で名前をつけたいんだな。わかるぞその気持ち!必ずその魔族に復讐をするという強い意志の表れだな。いいだろう、お前自身でその魔族に名前をつけるといい!」

「いえ、その魔族は既に討伐済みです」

「え?」

まるで時間が止まったかのようにその場が一瞬で静まり返った。

ジェイソンだけでなく、会話を書き留めている人や、書類整理をしているなど部屋にいる人全員の動きが止まった。

「も、もう一度言ってくれるか?」

「ネームド『シャドウ』、魔物使いの魔族は私たちが討伐しました」

「それは本当かい!?」

ジェイソンは隊長の方を見て確認するが、隊長は無言で頷くだけである。

「そ、そうか…話を聞く限り、魔族にやられ壊滅し二人だけでなんとか逃げ切ったのだとばかり思っていた。思い込みは良くないな、自分の視野を狭めてしまう。なるほど、討伐したのか。それも隊が壊滅した状態で二人だけで成し遂げるとは…」

「それついては一つ訂正させてください。魔族二体を討伐したのは彼のみの力でです。『シャドウ』を討伐した様子はこの目で、もう一体の魔物使いの方は私が気絶してる間に彼が討伐したそうです」

「個人で魔族を二体、それもネームド級を、召喚されたものは強い力を持つものだと聞いていたが、まさかこれほどとは」

ジェイソンはどこか悩むような顔で何かを考えている。

そして、何かを決断したように顔を上げた。

「シェパード、お前のその強さを利用しない手はない。当初はお前の強さを見て、戦闘班に組み込むタイミングを考えるつもりだった。だが、お前の強さはもはや人間族で最高レベルのものだと言っていいだろう。ケルンは最前線だが、他の最前線と違い、優秀な兵はあまり送られない地である。そのため、今までは牽制を仕掛けるだけであった。だがお前が加わったことで状況を変えることができる!攻め込むぞ!」

「正気ですか!?」

周囲の人間が驚きの表情を見せている。

「ネームドの『シャドウ』が討伐され、さらにネームドクラスの魔族がもう一体討伐されている。今ケルンは魔族が少ないと考えるべきだ。他種族同盟と言っても、最も警戒するのは魔族だ。その魔族が少ない今攻めずに、いつ攻めるのだ。俺たちには、百人力とも言えるシェパードがいる!すぐに隊を編成するぞ」

「わ、分かりました!」

多少強引ではあるが、ジェイソンのカリスマ性もあってか全員が手を動かし始めた。

「シェパード、悪いが今日のところはゆっくりしていてくれ。明日には隊を編成し終えるだろう」

「よろしくお願いします」

俺は引っ張られるように返事をして、部屋を出た。

「なんかすごいことになったな…」

「隊長があんなこと言うからですよ」

「俺は何一つ嘘は言っていない。それにお前の力を有効活用するなら、攻めるというのは良い手だ。存分に暴れて来いよ!」

隊長が俺の背中を叩く。

俺たちは宿舎に案内され、それぞれの部屋に分かれた。

どうやら、一人一部屋のようだ。

ベットに横になると疲れがどっと押し寄せた。

(結局俺は戦うことになるんだな…)

俺はナガオ村の方たちの話、ケルンを救ったという獣人族の話、それらを知った今の行動が正しいのかわからず、天井を見つめ続ける。

(それでも行動するしかないな。待っていても何が真実なのか分からない。なら自分で見つけに行くしかない!)

俺はブレスレットを強く握りしめ、そのまま眠りについた。


「隊長…なんでここにいるんですか?」

「仕方ないだろ、俺もこの隊に入ることになったんだからな。カッコよく送り出したつもりだったのに、こりゃ無いぜ…」

「俺は隊長と一緒に動けるのは嬉しいですよ」

「お前は悪運が強いからな、一緒にいる奴は苦労するぜ!」

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