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90話 シェパード

「準備はできたか?」

「もうとっくに終わってますよ」

「そうだな、俺が復活するまで待たせて悪かったな」

「気にしないでくださいよ」

隊長も回復し、俺たちはナガオ村を出てケルンにある本体を目指すことにした。

「みなさんお世話になりました」

「本当に行くのですね…」

「はい、私も自分の目で見ないといけないので」

「そうですか…またいつでも寄ってください。私たちはあなた様を歓迎します」

「ありがとうございます」

様付けされたことに違和感も感じたが、別に聞き返すほどのことでもないのでそのまま流した。

そうして俺と隊長はナガオ村を出てケルンへと足を動かした。


「いい村だったな」

「そうですね。どこか懐かしい気持ちになる素敵な村でした」

「王国兵としては中立の立場をとる村なんてのは無い方がいいんだが、俺たちには関係ないな」

王国兵という立場上、この村を放っておくことが正しいことなのかは分からない。

だが、個人としてはこの村はなければいけない村だと感じていた。

「村の方が言うには、ここからケルンまでは歩いて3日ほどらしいですね」

「この辺の地形に詳しいわけではないが、おおよそそれくらいだろう」

「隊長、俺実はケルンについてあまり知らないんですよ。最前線で、2年前に他種族側についたくらいしか知らないので、教えてくれませんか?」

「そうか、お前は召喚されてすぐこっちに来たわけだからな。知らないことも多いわけだ。分かった、ケルンについて説明するか」

俺と隊長は一度足を止め、川の近くの木陰で休憩することにした。

「ケルンはな、人間族の領地の中でも随一の交易の街だったんだ。人間族と獣人族は昔から仲が悪いが、ケルンにはそれなりの人数の獣人族がいたらしい。まぁほとんどは冒険者の獣人族だがな。そんなケルンが他種族側についた理由は、どうやら勇者とやらが関係しているらしい」

「勇者ですか…」

(勇者、この世界にもそんな存在がいるのか。召喚された時、俺の職業は勇者なのかと思ったが普通の旅人だったから、この世界には勇者という存在はいないのかと思っていたな)

「そうだ勇者だ。俺はこの話を全て信じるわけではないが、どうやらケルンは勇者に恩があり、その勇者の仲間とやらが獣人族らしい。だからケルンは他種族側についた。そういった噂程度のものしか俺は知らないな」

「噂ですか…」

(噂といっても、火のないところに煙は立たないというし、この噂に近しい何かがあったんだろうな)

「それで今のケルンはどうなってるんですか?」

「最前線という言葉通り、人間族がケルンの外に拠点を作り、他種族はケルンで防衛をしている状況だ。まだ本格的な争いには発展していないが、いつ始まってもおかしくない睨めっこの状況が続いている」

「なるほど、俺たちが合流する本隊は外の拠点にいるわけですね」

「そうだ、だが俺たちの隊は二人になってしまったからな…本体にも壊滅の情報は入ってないだろうし、合流したあと忙しくなるもしれないな」

「俺の存在を本隊は知ってるのですか?」

「そうだったな…お前のことは本体にも伝わっている。強力な助っ人が来ると聞かされている状態だから、お前はすぐに戦火に投入されるかもしれない」

「そうですか…」

覚悟していたことだ。

俺は戦力として召喚された以上、この争いに人間族側として貢献しなければいけない。

(いや、違うな…俺の使命はこの世界を救うことだ。この争いが世界を救うことにつながるかもしれないから、参加するんだ!)

俺は当初の目標を見失いかけていた。

それほどまでにこの世界での出来事は大きく俺に響いていたのだ。

「隊長、俺はしばらくシェパードの名を使おうと思います」

「何か警戒してるのか?」

「確かにそれもありますが、俺はシェパードからこのブレスレットを兄に渡して欲しいと頼まれたんです。もし俺が活躍してこの名が広まればシェパードの兄に会えるかもしれません」

「そうか…だがお前の名は広まらないぞ」

(俺の名は確かに広まらない。ユイやアオイ、ハルトと合流するのはまだ先になってしまうかもしれない。それでも俺にはやるべきことがある)

「それでもです。俺は自分のやるべきことをやりたいんです」

「お前はそういう奴だもんな。頑張れよ、シェパード!」

「はい!」


「ここが本隊ですか…」

ナガオ村を出てちょうど3日目の夕方、俺と隊長は本隊がいる拠点にたどり着いた。

目視できる距離にケルンがある拠点である。

「何者だ!?」

俺と隊長は拠点の入り口で止められた。

人間族であることからすぐに攻撃されることはなかったが、二人だけで近づいてくる人影に警戒態勢が取られていた。

隊長が自分たちも王国兵であること、魔族で襲われて壊滅したこと、生き残ったのはこの二人だけだということを伝えた。

「では彼が…」

門兵の目が俺に向けられる。

(やはり俺の情報は行っているみたいだな…)

俺は自身の情報が伝わっていることを確認し、覚悟を決める。

「私はシェパード。人間族としてこの戦いに加わるために異国より召喚された者です」

俺は門兵にそう伝えて、中へと案内された。

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