8話 キサラギ ルナ
「お兄さん、そろそろ朝ですよ~」
「んっ、もうそんな時間か……」
村長さんと熱い話し合いをした翌日、彼女に起こされ朝を迎えた。
「私は村のみんなと共に、水浴び行ってくるから!絶対に見に来ちゃだめだよ」
「ん、わかったよ……」
「じゃあ行ってくる!」
そういい放つと彼女は駆け足で飛び出しっていった。
「元気ないい子ですね」
「そうですね」
村長も今起きてきたのだろうか、目をこすりながら声をかけてきた。
「そういえばあの子の名前を聞いていませんでしたな、彼女の名前は何というんですか?」
「それがいろいろあって名前がないみたいなんですよ……」
「……そうですか、それならあなた様がつけてあげてはどうですか?あなた様がつけてあげれば彼女も喜ぶと思いますよ」
「そうだといいんですけど……彼女に聞いてみることにします」
「彼女はあっちの方に走っていきましたよ」
「ありがとうございます」
村長にお礼を言い、教えてもらった方に向かった。
寝起きに彼女がなんか言っていた気がしたが、まあたいしたことではないだろう。
「そういえば、水浴びに行くとか言っていた気もするな。彼には悪いことをしてしまったのかもしれないな~」
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「おーい、いるか?」
彼女を探して森に入ってみたがなかなか見つからない。
(やはり名前がないと呼びかける時も苦労するな……)
などと考えて歩いていたら、どうやら足を踏み外してしまったらしい。
「あっ、ヤバイ」
崖を滑り降りるように落ちていく。
「まずい、まずい、このスピードはまずい!」
(俺の異世界生活はモンスターにやられるわけでも、誰かにやられるわけでもなく、がけから落ちて終わっちまうのか!いや、下に川があるあそこに下りれば助かる!)
速度に身を任せ、その勢いのままちょっとした滝つぼに飛び込む。
「バッシャーン!」
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「た、助かった!」
どうやら無事に着水できたようだ。
「お、お、お兄さん!どうしてここにいるんですか!」
「おっ、ちょうどいい所に!俺も探してたんだよ!」
「私言いましたよね、覗きに来ないでくださいって!こ、こ、こ……」
「ちょっ、待って、これには理由が!」
「このへんた~い!!」
「パチン!」
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「んっ、俺は何をしていたんだっけ?」
「あっ、目を覚ましましたね!」
「な~、崖から落ちたところから記憶がないんだけど、何があったか知ってるか?」
「ふん、私は何にも知りませんよ!」
「そ、そうか」
なぜだか彼女は怒っているようだが、触れないで置いておくのがよさそうだ。
「そういえば、俺は君に用があって探していたんだった!」
「何か用事でもあったのですか?」
「君にも名前が欲しいかなって思って」
「そういうことなら、お兄さんにつけてほしいな~」
「俺でいいのか?」」
「お兄さんだからいいんです!」
「それはうれしいな!ん~、それじゃあ、ルナなんてどうだ?」
「ルナ、それが私の新しい名前……、お兄さんありがとうございます!すっごくうれしいです!」
「気に入ってくれてよかった~」
「ルナ……それじゃあ私はアサヒ ルナだね!」
「おい待て!なんで俺の名前が使われてんだ!?」
「獣人族は生まれたときに家族から名前をもらいます!そして、ほかの人から名前をもらうときは…そういう時です!」
「おいおい、話が進みすぎてないか!」
「まさか私にあんなことをしておいて、責任の一つも取ってくれないのですか?」
「俺はいったい何をしたんだ!?それに俺のいた国にではな、君ぐらいの年齢の子と一緒にいることはいろいろとまずいんだよ」
「私はもう13歳ですよ!」
「全然アウトじゃないか!お前は俺にとって妹みたいなもんなんだよ!」
「ん~、妹ですか、今はそれでもいいですけど、いつか責任取ってもらいますからね!」
「わ、分かったから!いったん放してくれ」
「しかたないですね~」
そういうと彼女は握っていた俺の服の袖を放してくれた。
「あといっておくが俺の名前の一部を使うなら、アサヒ ルナじゃなくて、キサラギ ルナだな!」
「キサラギ?」
「あれ、言ってなかったっか?俺の本名だよ、如月朝日。そういえば、村長さんにも言ってないな」
「キサラギ アサヒ……まるで伝説の勇者様、ナガオ ケイト様のようですね!」
「ナガオ ケイトのことを知っているのか!?」
「呼び捨てにするのは失礼ですよ。この世界を救ってくれた英雄ですから!」
「なあ、勇者が魔王を倒した話どのように獣人族に伝わっているんだ?」
「勇者伝説ですか?子供のころ何度も読み聞かせしてもらいましたからね!勇者ナガオ様とその仲間の人間族、獣人族の屈強な戦士たちがともに協力し魔王を討伐したと、彼らは私たちのあこがれです!それに対して、臆病者のエルフは見てるだけで戦いには参戦しなかったらしいですよ。ナガオ様は獣人族の方々にも分け隔てなく接してくれた方らしいです。お兄さんみたいに、」
「まあ、彼とはおそらく同郷だからね」
「同郷なのですか!?さすがお兄さん!これはますます逃せませんね……」
「その伝説なんだけどな、実は真実が異なるらしいんだ」
そしてルナに昨日村長から教えてもらった話を伝えた。
「そんな真実があったんですね。なるほど、人間族が獣人族を差別する理由が分かりました。いったい誰が真実を曲げ、3種族の中を悪くさせようとしているのでしょうか?やはり魔王が関係しているのでしょうか……」
「その魔王のことなんだが、俺には世界を救うっていう使命があってな…」
そしてルナには俺がこの世界に来た理由、仲間たちのことなどすべてを伝えた。
「やはりお兄様は、ナガオ様みたいですね!たくさんの仲間たちと旅をして、強敵を倒して進んでいく、そんな彼みたいな旅をこれからしていくのですね!そしてこの世界に来て初めて出会ったのが私、やはり運命ですね!」
「ハハ、そうだね。ルナに会えてよかったよ。ルナ、俺はこれからこの世界の真実を調べに、同郷の仲間を探しに、そしてこの世界を救いに旅に出る。厳しい旅になるだろう。それでも俺にはルナの力が必要だ。俺一人じゃできないことがたくさんある。だから、俺についてきてほしい!俺と一緒に旅をしてくれないか!」
「私はルナです。キサラギ ルナです。お兄さんに断られたってついていきますよ!私もこれから始まる物語に加えてください!」
「あぁ、よろしくな!」
後の世に広く知れ渡ることになる大魔導士ルナ、彼女の旅はまだ始まったばかりである…