4話 出会い
「おかしい、どうして俺は檻の中にいるんだ?」
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この世界に来て2日目の朝、
「案外人間強くできてるもんだな。こんな状況でも、ぐっすり寝れるとは……」
昨日の残りの肉を食べ、身支度を整え進むことにした。
「今日の目標は現地人に出会うこと。後は仕様というか、ステータスの気になるところを確認すること。昨日のめまいの原因も確認しないとな」
目標を決めずに行動するのと計画を立てて行動するのでは、効率に雲泥の差がある。
ましてや、右も左もわからない世界だ。
慎重に行動することは、命を守ることにつながるだろう。
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今夜は木の実とウサギ肉である。
このウサギがまあまあ凶悪であった。
かわいい生き物もいるものだと近づいたら、牙をのぞかせ急に襲ってきたのだ。
たまたま手に持っていた枝を前に突き出したら、のど元に突き刺さり倒すことができた。
「昨日のモンスターより淡白な感じでおいしいな。これぐらいのモンスターなら何とかなるし、しばらくの食糧にしていこう」
今日1日過ごして分かったことがある。
この森は案外でかいということだ。
やみくもに動いては迷ってかなりの時間抜けだせなくなってしまうかもしれない。
そう思い、途中から木に目印をつけることにした。
今の所、同じ場所に迷い込んでいるわけではないみたいだ。
「この牙は使えそうだな。今のうちに複製しておくか。現状二回が限界か……」
他にも分かったことを整理しておこう。
俺が今まで多くのゲームで得意としてきたこと、そうバグ技をこの世界でも使うことができるということだ。
今使ったのも、所謂増殖バグを利用した技である。
ただし、この世界でバグ技を再現するにはMPを消費する。
つまり魔法という扱いに入ることになる。
昨日、倒れた原因はMP切れによるものだった。
いまもMPが2割を切り、頭痛のようなものに襲われている。
そしてレベルアップという概念だ。
多くのゲームやファンタジーの世界にはレベルという概念が存在しているが、ステータスのどこを見てもレベルの表記はなかった。
しかし、昼間ウサギを倒した後ステータスを確認すると、HPが110、MPが20に増えていた。
これはあくまでも想像だが、経験値みたいのは存在し魔物を倒すことで成長できると考えられる。
これからは倒せそうな魔物は積極的に倒していきたい。
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この世界に来てから、7日間が経過した。
あれからコツコツと魔物を倒し、HPは200、MPは100まで伸びた。
今まで多くのゲームで使ってきたバグ技も試してみたが、使えたのは複製バグとすり抜けバグだけだった。
MPの問題なのか、なにか条件があるのかわからないが今後使えるようになることを信じよう。
ちなみに複製には一つ増やすのにMPを2、すり抜けはすり抜ける物体の幅によって消費するMP量が違うことがわかっている。
計画的に使わないと、すり抜けた先で動けないちう最悪の展開になる可能性がある。
「それにしても、今日であった第一現地人がまさか山賊だったとは……」
今日1番の発見は、山賊と遭遇したことだろう。
話しかけることはやめておいたが、遠めから見ても明らかに山賊とわかる格好をしていた。
さらに、やつらの拠点のような場所を見つけることができた。
もしかしたらこの世界についての情報をつかむことができるかもしれないし、明日忍び込んでみよう。
(戦闘になったら俺はほぼ無力と考えるべきだろうな……なるべく隠密に行動するべきだろうな)
「ステータス」
職業 ???
「やっぱり職業に変化は無いか。もしかしたら、盗賊や暗殺者だったりしないかと思ったが違うみたいだな。まぁー、村とかに入るときに盗賊とかだったら困る可能性もあるし、違ったことを喜ぶべきかもしれないな」
7日目の夜、そろそろこの世界の夜空も見慣れてきた。
(東京では絶対見ることができない眺めだな。昔、父親の実家で見た田舎の空に似ているな……現実世界の俺はどうなってるのだろうか。二人とも元気にしてるかな……絶対にこの世界を救って、また同じ机でご飯を食べるんだ!)
懐かしい景色を思いながら、今日も一人さみしく眠りにつく……
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あたたかい陽射しと共に目を覚ます。
昨日、見つけた山賊の拠点に忍び込む準備を始める。
使えそうなものは一通り持っていくことにした。
HP、MP共に完全回復している。
「よし、行くか!」
山賊の拠点は自然にできた洞窟を利用していた。
洞窟の入り口には見張り役が2人いる。
(チート系主人公なら正面から突破するだろうけど、俺は見張り役にすらかなわないだろうな……よし、上から侵入するか!)
俺は上から直接拠点にすり抜けることにした。
(空中浮遊バグが使えたら、移動も楽だったのにな~)
そんなことを考えながら、山賊に気づかれないように岩肌を登っていく。
おそらく山賊の拠点の真上と考えられる場所にたどり着いた。
(よし、それじゃあ行くか……すり抜け)
心の中で唱えるとともに体が沈んで、岩に飲まれていく。
数秒間の暗転の後、足から空間に出た感覚が伝わり、全身が岩から出た。
(とりあえず誰にも遭遇しなくてよかった…やはり通路として利用されてるな。まずは、MP確認を…)
「なんか音がしたぞ!」
通路の奥から人の声が聞こえたのと同時に、複数人の足音が近づいてくる。
(まずい、一度逃げなければ……すり抜け)
急いで横の壁に飛び込んだ。
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「いてて、とりあえず逃げ切ることができたか…」
壁はあまり厚くなく、飛び込んだ勢いそのままに床に激突してしまった。
顔を上げるとそこには鉄格子があった。
「おかしい、どうして俺は檻の中にいるんだ?」
どうやら、飛び込んだ先がたまたま牢屋だったのだろう。
「……お兄さんどこから来たの?」
震える声がすぐ隣から聞こえた。
声が聞こえた方を見てみると、そこには手錠をかけられた女の子の姿があった。
服もボロボロで、衰弱しているようだ。
顔はフードのようなもので隠されていて見えない。
「君、大丈夫か?どうして捕まってるんだい?」
「私は奴隷として売られて、輸送されているところを山賊に襲われて、ここに連れてこられたの」
どうやら彼女は奴隷なようだ。
(この世界には奴隷制度があるのか……気を付けないと俺も奴隷落ちする可能性があるな)
「今から俺はここを脱出して、情報を集めようと思っている。もしよかったら一緒に来るか?」
「私もここから出たいのだけど、手枷がついてるしそもそもこの鉄格子がある限り出れないでしょ?」
「そこは俺に任せてくれ!とりあえず見ていてくれ」
そう言い放つと、鉄格子に手を掛け
(すりぬけ)
そして鉄格子をすり抜ける……はずだった。
「お兄さん何してるの?」
「あれ、こんなはずじゃないのに……」