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「騒がしくてびっくりしただろう?許してくれ。妻は、ソフィアの娘……孫に会えると、それはもう喜んでいて。興奮して昨日は眠れなかったくらいなんだ。もちろん私もとても会えるのを楽しみにしていたよ。君の祖父だ」
「お祖父様とお祖母様……」
私の……家族……。
こみあげてくる感情が抑えきれなくて思わずつぶやきを漏らす。
迷惑をかけてしまうから、距離を置かなければいけないのに。
「ああ、ソフィアンナ。今まで辛かったでしょう!助けてくれない私たちを恨みもしたでしょうね。ごめんなさい。子爵家に関わらないでという亡くなった娘の意思を尊重しようと……ごめんなさい」
お祖母様がうわっと泣き出し、お祖父さまがハンカチを差し出した。
「あ……」
お祖母様に差し出したハンカチは、ジョアンナ様に頼まれて刺繍したものの一つだ。
「はいはい、話の続きは後でいくらでもできるから。先に自己紹介させてもらえないかな」
苦笑しながら、お父様と同じくらいの年の男性が私の前に立った。隣には、リスのような小動物を思わせる小柄で少しふっくらとした女性が立っている。
「ソフィアの兄で、君の伯父にあたる。……そして、ソフィアンナの義父になるウォルトだ」
「ウォルトの妻のビィ―ナよ。あなたの義母になるわ。ジョアンナから話は聞いたわ」
ジョアンナ?侯爵夫人を呼び捨て?
「ジョアンナ様から?」
「ええ。ソフィアとジョアンナと私は、親友だったの」
「お母様の親友……」
ビィーナ様がにこりと笑った。
「急に、義母って言われても困るわよね?書類上は私たちの養女になるけれども、義父母だと思えなければ叔父、伯母だと思って接してくれればいいわ。でも、私は娘ができるのがとても嬉しいの。それは覚えていて」
ビィーナ様の言葉に、二人の後ろから青年が顔を出した。
「僕も、義妹ができるのが嬉しいよ。君の義兄になるブレッドだ」
それから同じくらいの男の子が顔を出す。
「お義姉様!初めまして。義弟のシャルンです」
最後に、5歳くらいのかわいらしい男の子がぴょこっと出てきた。
「お義姉様、綺麗。あ、ぼく、えっと、マイルズです」
かわいい。
「うちは男の子ばかりだから。本当に娘が欲しかったの。だって、ドレスを選びに行っても「まだ決まらないの?」「これでいいんじゃない?」「もう帰ろうよ」って……いつもそればかりなんですもの」
「いや、お母様は何を着ても似合うから。そうですよね、父上!」
ブレッド様がウォルト様に同意を求める。
「あはは、その通りだ。だが、やはり女性はいろいろ選ぶ時間が楽しいのだろう。ソフィアンナさっそく近いうちに妻の楽しみに付き合ってもらえると嬉しい」
「あらまぁまぁ、私も混ぜてくれないと」
お祖母様の言葉に、お祖父様が苦笑する。
「こりゃ一段と長くかかりそうだ」
その言葉に、どっと笑いが起きた。
私、この幸せそうな家族の一員になってもいいの?
私も家族になってもいいの?
ぎゅっとスカートを握り締めた。
いいわけがない。
「だ、ダメです……私は娼婦と噂されるような評判が悪いので……迷惑をかけてしまいます……」
私の言葉に、ビィーナ様が、硬く握りしめていた私の手の上に柔らかくて暖かい手を載せた。
「辛かったわね……」
「もう、誰も娼婦なんて言わないわよ。あなたは英雄よ。ひどい扱いを受けていた女性たちがどれほどあなたに感謝していることか」
お祖母様が、私の両肩をそっと抱きしめてくれる。




