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いくら陛下からのお咎めがなかったとはいえ……。お父様……いえ、元お父様?の言うように他の貴族からにらまれたりするだろう。
「え……」
ルード様が小さく声を上げて、口元を抑えた。
「嘘だろ?」
嘘?何が?
「ア、アイリーン……どうして君が……」
ルード様の言葉に、思わず背を向けて廊下を駆けだす。
「待ってくれ、アイリーン……っ!いや、ヴァイオレット……ああ、どちらでもいい、君なんだろう!」
すぐに追いつかれ、私の前に回り込んで通せんぼをした。
「ルード様……」
もう一度背を向けて走っても同じように追いつかれると思ったら、それもできずに立ち止まった。
「ああ、どちらでもいいわけはない……」
そりゃそうよね。
「弟と親しくしていた方がどちらなのか知りたいのですか?」
弟と分からさせようとしていたのが、私なのか私じゃないのか。
「いや、ああ、まぁ、それも少しは……」
少し?それ以外に何が問題なの?
問題と言えば……。
「ルード様、私が貴族の養女に……伯爵家の養女になったと言う話は本当なのですか?だとしたらすぐに撤回できませんか?迷惑をかけたくありません」
「迷惑かどうかは……本人たちに確認したらいい。その前に、ヴァイオレッタで間違いない?養女になるのはヴァイオレッタなんだ」
ルード様は、私がアイリーンでなくてがっかりしないのだろうか。
それとも……ヴァイオレッタであれば私のことが好きだと言った気持ちが冷めて、すっきりするのだろうか。
いろいろな思いが頭の中をぐるぐると回るけれど。
嫌われたくないと、今更そんな気持ちを持つことが恥ずかしくなった。
「私が本物のヴァイオレッタです。本物のアイリーンは領地で静養中なので、お茶会に代わりに出ていました」
そうかとルード様が小さく頷いた。
「おいで、こっちに君の新しい両親がいる。」
新しい両親?伯爵様がいらっしゃるということ?
ルード様の差し出した手に素直に引かれていく。
会ったら、謝って断ろう。
廊下の角を2回ほど曲がって連れていかれた部屋に通されると、中には想像していたよりも年を召した男女の姿があった。
髪にはちらほらと白髪が目立つ。
「初めまして……あなたの祖母よ」
え?
祖母と名乗った女性はほろほろと涙を落とした。
「本当にごめんなさい。初めましてなんて挨拶になってしまうなんて……。娘が嫁いでからは手紙一つやり取りを拒まれていたの。手紙を出してもそのまま送り返されてしまって……」
そうだったんだ。
「ああ、顔をよく見せてちょうだい。この瞳の色はソフィアにそっくりね」
ソフィア……。お母様のお母様……私の祖母……?
「それからこの髪の色はお義母様にそっくり。あなたの曽祖母……ひいおばあ様と同じ色をしているのね」
ああ、やはり。お母様の言う通り、私の髪の色は知らない誰かのものじゃなかった……。お母様は浮気なんてしていなかったんだ。
「でも、色はひいおばあ様似だけれど、髪質は私に似たのね。ひいおばあ様は全く癖のないまっすぐな髪で、髪を結うのに苦労していたから。あなたの髪は私にそっくり。ほら、この髪の先が来るんとなっているところなんて、ねぇ?そう思うでしょうあなた」
あなたと呼ばれた男性……私のお祖父様?が苦笑する。




