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「知っている。ヴァイオレッタとその父親であるシュリアド子爵だろう」
ああ、そうだ!私は今アイリーンではない。憎いヴァイオレッタだった。
「知っているのならなぜ止めた」
「助けてと聞こえたからだ」
「はっ、知らないかもしれないが、先ほどこの馬鹿娘は、お茶会でひと騒動おこしたんでね。これ以上迷惑をかけないように連れ帰るところだ。まだお茶会にいたいと我儘を言っているだけだ」
ルード様が私の手を取っり、自分の隣に並ばせた。
「遠くから騒動を見ていたが、陛下が騒ぎを収めたと思うが?」
ルード様が見ていた?
「陛下が彼女をとがめていないのだ。問題はないだろう」
正論を言われお父様が言葉に詰まった。
「そ、そうだ、娘は気分が悪いと言うから連れ帰るんだ!邪魔をしないでもらおう!」
ルード様が首を横に振った。
お父様が私の手を、ルード様から奪うようにつかんだ。
「ああ、言い忘れていましたけど、シュリアド子爵はヴァイオレッタの父親だったのは、昨日までです。今日から彼女は別の貴族の養女となりました。正式な手続きはすでに終了してます」
え?
私が、養女?
それって、ジョアンナ様が……もしかして……。子爵家を出る方法として?
そんな。私はもう平民になるつもりで……。社交界とはかかわりが無くなると思っていたから……。
だから、すべてをぶちまけたのに。
私を養女にした家に迷惑をかけてしまう。どうしよう。いっそのこと、お父様に売られて行方不明になったほうが……。
「何を馬鹿なことを。親である私の了解なしに、養子縁組ができるわけないだろう!」
ルード様が鼻で笑った。
「ヴァイオレッタは前妻が浮気をして産んだ、自分の子じゃないと言っていたのでは?」
「そ、それは……」
「自分子じゃないと言って冷遇していたとの話から、貴族規律院が動いて、先ほど屋敷に調査が入った」
「な、なんだって?」
「その結果、屋根裏部屋にヴァイオレッタが生活していた痕跡を発見。近所に住む者の証言からヴァイオレッタが水汲みや買い出しなど使用人のような仕事をしていたと確認。貴族を傷つけるものは親でも許されない行為だ。虐待は爵位剥奪」
お父様が青い顔をしてルード様に訴える。
「馬鹿な、自分の子じゃないのにめんどうをみてやったんだ。使用人として働かせて何が悪い!虐待じゃない、住むところと食事と得るために労働するのは普通だろう!」
ルード様がふっと笑った。
「自分の子じゃないなら、養子縁組にあなたの許可は必要ないですね」
お父様が再びカッとなった。
「き、詭弁だ!それとこれでは話が違う!」
ルード様があきれた声を出す。
「分かっていないようですが、あなたの子であれば虐待で爵位剥奪。当然親としての資格を失います。あなたの子でなければ虐待の罪はなくなるでしょうが」
そこでいったんルード様が言葉を止めた。
「自分子ではないのに、自分の子として届け出を出したとなれば、虚偽の書類を国に提出した罪で、平民落ちどころか犯罪者落ちとなるが、それでいいか?」
お父様がぶるぶると震えだした。
「どちらにしても、シュリアド子爵の許可は必要ない。すでにヴァイオレッタは伯爵令嬢だ。分かったらとっとと屋敷に帰って荷物でもまとめることだな。処罰が正式に決まれば屋敷を出て行かなくなるのだから」
ぴょんと小さく飛び上がってお父様が走り去った。
お父様のルード様のやり取りをただ茫然として見ているしかなかったけれど、我に返って青ざめる。
「養女の話は……あの、ダメです、私、迷惑を……」
隣に立つルード様に声をかける。
騒動を起こしたのだ。