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まだ何か言いたげな者もいる。
「王室に次ぎ、公爵家と同等、もしくはそれ以上だと言われる辺境伯次男のハルーシュ様がまさか偽証しているなどと疑う方はまだいらっしゃいますか?」
偽証したのは私だ。いいや、嘘なんかじゃない。
愛人のフリをしてくれたのは、半分だけ。そこからは……恋をしていたのだ。愛人じゃない。だから嘘じゃない。
「ああ、そうでした。愛人のフリをしてまで、か弱き女性を守ろうとしてくださったハルーシュ様に対して、田舎者だと馬鹿にするようなお手紙もいただいておりました……どなたからでしたか……。その方の証言を集めると、不敬に当たるのではないかと心配ですが……」
ポケットに手を突っ込むと、ハルーシュ様が小さくつぶやく。
「もう、十分だ……」
それから、静まり返った人々に向かって声を張り上げた。
「爵位をちらつかせ、逆らえない女性に不埒な行いをする者は改めるべきだ。もし、このような行為をする者がいたら、徹底的に調べ上げ、罰するよう訴えを起こそう。爵位に関係なく貴族が貴族を傷つけることは重罪だと、理解していない者が多すぎる」
ハルーシュ様の言葉に、女性たちから拍手が起きた。
「ヴァイオレッタ様が身を挺して窮状を訴えてくださったんだわ」
「私もしつこく迫られて困ったことがありましたの」
「私も。部屋に連れ込まれそうになりましたわ」
「怖くてとても夜会にはいくことができませんわ。男爵令嬢にとっては危険しかありませんもの」
という声が聞こえてくる。
ヴァイオレッタは娼婦のようなあばずれだという声が、女性たちのために立ち上がってくれた立派な人だとイメージが変わった。
ハルーシュ様の一言で……。
でも、これだけで終わらせる気はない。
「感謝してくれるのはありがたいですが、でも……あなた方も許せませんわ」
びしっと、少し離れた位置にいる令嬢を指さす。
「あなたも、あなたも。そしてあなたも……!」
「私は何もしてないわ!だって、会ったこともないでしょう!」
令嬢の一人が口を開いた。
「妹のアイリーンをいじめていたでしょう。陰口は仕方がないとはいえ、周りを取り囲んで罵詈雑言を浴びせたり、お茶をぶっかけたりと……!理由が男に色目を使っていたですって。言いがかりもいいところよ!妹のアイリーンも同じ。利用しようとする男が近づいてきただけ」
令嬢たちに今度は男たちが冷たい目を向ける。
「お茶をかけるなんて君はそんなひどいことをしていたのか?」
「怖いな、女って」
と、男から非難する声も上がっている。
「う、嘘よ!ちょっとよろけて紅茶がかかったのを大げさに言っているだけよ」
「そうよ。庶民の娘にマナーを教えていただけだわ」
「だいたい、ヴァイオレッタとアイリーンの姉妹は仲が悪いっていう話でしょ?私たちを陥れるために嘘を言ってるんだわ!」
「そうよ!私たちがやったって証拠なんてどこにもないでしょ!」
ヴァイオレッタとアイリーンの仲が悪いという噂は皆も知っていたようで、突然妹のための行動を起こす不自然さを感じたみたいだ。集まった人たちが、令嬢たちの言葉に納得し始めた頃に私の味方の声が上がった。
「証拠が必要なら私が証人となりましょう」
「ジョアンナ様!」
人込みの間からジョアンナ様が現れた。
「先日の私のお茶会で、アイリーンはドレスを血で汚しておりましたわ。背中です。自分でわざと怪我をすることができないような場所でしょう。部屋を貸して、侍女に着替えさせましたわ。必要でしたら侍女にも証言させましょうか?」
その言葉に令嬢たちが口を閉じた。