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 唐突に声をかけられ、びくりとして視線を声のした方に向ける。

 ひゅっと思わず息を飲み込む。

 天井画から抜け出したのかと思うほど、素敵な男性が立っていた。

 濃紺の瞳に、黒髪。すっと通った鼻すじに引き締まった口。なんでも見透かしそうなほど鋭さを持った瞳は、私がアイリーンじゃないことまで見抜いているのではないかと思うほど。

「あ、あの……」

 どうしよう。この人は知り合いなの?誰なの?

 お父様はこちらに背を向けてずっと話を続けている。

 もし、知り合いなら名前を聞くのもおかしい。

「て、天井画を見ていました」

 どうしていいのか分からなくて、聞かれたことだけを端的に答えた。

「ふぅん、珍しいな」

「え?あ?そ、そうですか?」

 アイリーンの知り合い?いつも私はそんなことはしてないから珍しいってこと?

「ほら、見てみろ。誰も天井画なんて見てる奴なんていないだろ?」

 珍しいというのはそういうことか……とほっとする。

 言われて周りを改めてみると、確かに。

「もったいない……ずっと眺めていても飽きないのに……」

 ぼそりと本音が漏れた。

 男の人は、クスリと笑うと、天井を見上げた。

「まぁ、確かにな。だが、首が疲れる」

 今度は私がクスリと笑った。

「確かにそうですわね。でも……」

 すっと手袋をはめた手を伸ばす。

「真上ではなく少し先の天井画を見ていればあまり首も疲れませんわ」

 男性は私が指し示した先を見てから真上を指さした。

「なるほど、だが、真下から見るのが一番美しく見えるように描かれている」

 今度は私が男性の指した絵を眺めた。

 遠くに見える絵画に比べて、確かに描かれた人物の表情までしっかり見ることができてより魅力的に見える。

「どうだ?」

 男性の期待するような問いに思わず笑みがこぼれる。

「確かにそうですね。と言うことは、遠くから見て楽しんだ後に、真下から見てまた楽しめるということですね」

 ポンと、男の人は自分の額を手で押さえた。

「その発想はなかった。確かにだ。遠くから見て楽しんでから、近くに行って見れば二度楽しめる」

「いいえ、きっと素敵な絵ですから何度でも楽しめます」

 すかさず答えを返すと、あははと楽しそうに笑った。

 なんでも見透かしそうな鋭い目が、とても楽しそうに細められたものだから、思わずこちらまで楽しい気分になった。

「あはは、確かにその通りだ。で、近くで見たいと思った絵はあるか?」

「はい、公爵様がいらっしゃる場所の上にある絵が……。流石にあそこだと、ご挨拶をして上を見上げるわけにはいかないでしょうが……列が進めば、少しは近くから見られると思うと楽しみです」

 アイリーンの代わりに出席することになった舞踏会だけれど、楽しみが少しでもあることが嬉しくなった。

「よし、おいで」

 男性が私に手を差し出した。

「え?あの、私」

 主催者である公爵様へのあいさつのために並んでいる途中で。

「お、お父様……」

 こういう場合はどうしたらいいのか分からずお父様の手を引っ張っる。

「ご令嬢をお借りする」

「え?あ、ちょっと」

 男性はそう言うと、私の手を取り会場をさっそうと進んでいく。


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