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日付はハルーシュ様が愛人宣言をする前の物ばかりだ。一つだけ「あんな田舎者の愛人なんてやめて私のところへ来い」というものがあった。どうもやはり他の人と関係があったようには思えない。
なぜ、アイリーンの日記は妊娠したという日の数日前で終わっているの?
何か特別の意味が?
アイリーンがもし、妊娠にはもっと前に気が付いていて、ハルーシュの子だろうと分かっていたとしたら……?
私とハルーシュを結婚させるつもり?
それはないよね。結婚を望んでいたわけじゃない。結婚できないから愛人でいいと思ってたくらいだ。
それなのに、ヴァイオレッタに子供ができたからって結婚できるなんて思ってるはずがない。
子供ができたなら愛人にはなれるのでは?
そうなれば、私じゃなくてアイリーン自身がなればいい。
そこまで考えて、ハッとする。
……それを、お父様やお義母様が許すわけが……。
アイリーンもそれを分かっていて……。
どうするつもりなの?
瞼の裏に、アイリーンの日記をめくった時の光景が映る。
黒く塗りつぶされたページに、一面に死にたいと書かれたページ。
まさか……。
「死ぬつもり……?」
はぁー。はぁー。
呼吸が苦しくなる。
義妹じゃない。義妹じゃ。妹だ。異母妹だ。
お父様が私が自分の子じゃないっていうけど。違う。どうしたって、妹だ。
私と同じように、両親に辛い思いをさせられていた……二人だけの姉妹。
ルード様の弟の幸せを願うのは当たり前だと言う言葉を思い出す。
まだ、やり直せるかな……。私たち姉妹。
苦しみを分かってあげられなかったけれど……。
何か、力になれることはないのかな……。
ぽろぽろと涙がこぼれる。
何か、これからのアイリーンの行動に手掛かりはないだろうかと、もう一度ドレッサーの引き出しを開いて封筒を取り出す。
「ここは?」
下の引き出しも開くと、綺麗な箱が一つ。
何が入っているのだろうと思ったら、沢山の封筒が入っていた。
一つ手に取り中身を確認する。
二つ折りになっていた紙の間に押し花が挟まれていた。
ピンクのモス・フロックスだ……。
「ふ、ふふ……。血がつながっていると、こんなところまで似ちゃうんだろうか……」
ルード様とハルーシュ様。
それから、私とアイリーン。
贈りもとも言えないような小さな思い出の品が丁寧にとってある。
好きの気持ちが溢れた宝箱だ。
「アイリーン……」
女の子なら……男の子なら……。
まるで、お母様の本に書いてあったような紙が出てきた。つけたい名前、それからどういうことをしてあげたいということ。
「何これ。なんで、これ……」
やっぱり妊娠してるのはずっと前に分かってたんだ。どうしよう子供ができてしまったなんて考える時期はとっくに終わっていて。
もう、何かを……アイリーンは決心していた。
この箱に……子供の名前を。
何を一体……。何を……。




