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10だけ数えて、回していた手をはずしてルード様の体を押した。
ルード様は、素直に私から体を離してくれる。
ただ。肩に手を置いたまま私の顔を悲痛な表情を浮かべて見ている。
「間違ってないです。決して……」
目を逸らそう……そう思ったのに、強い視線にそらすことができない。
「分かっています。ルード様は……失礼ながらどこの家の方か分かりませんが上位貴族でしょう?」
ルード様は表情を動かさない。私がそう思っていることは分かっていたのだろう。
「いくら私がルード様のことを好きになろうとも、叶わないと……分かっています。そういうものだと……」
ルード様が私を再びその胸に包み込む。
今度は、宝物を扱うように優しい抱擁だ。
「違うんだ、違う。俺は、間違っていた。弟にだって……もし子爵家に婿入りしたいなら、我が家の恥とならぬように、鉱石を残し子爵家を伯爵家に陞爵できるように励むようにと言うこともできたんだ。婚約間近だったとはいえ、まだ婚約していなかったんだ。相手には別のよい縁談を世話することもできた……」
それこそ、きれいごとじゃないだろうか……。いくら最小限になる方法を模索したとしても、家の評判を落とすことに違いはないのでは……?
ジョアンナ様の出たければ……という言葉を思い出す。
それは子爵家の令嬢として貴族としての務めを放棄するということ……。
子爵家を出れば……お父様が「ヴァイオレッタは私の子じゃない」という主張を認めてしまうようなことなのでは……。
刺繍一つ自由にすることができないと。
もし家を出れば……ジョアンナ様の手を取れば……と思ったけれど。
私はお父様に愛されなくても構わない。もう、お父様に愛されようだとは思わない。家族だと思うのもやめた。
だけど、お父様の子だと、お母様は決してお父様を裏切るようなことはしていないということだけは認めてもらいたい。お母様の名誉のために。
子爵令嬢としての務めを放棄するわけにはいかない。お父様に憎まれようと嫌われようと私は、お父様の子として子爵家にいなければ……。
子爵家の名誉を守るために、アイリーンが産んだ子を自分の子として父親の元へ嫁げというのが、私の役割なら……。
「それでもやはり、ルード様は間違っていないと思います」
ルード様がゆっくりと体を離して私の顔を見つめる。
「いいや。間違っていた……。人を愛することを知ってからは……。家のために好きな人と別れさそうとすることは、つまりは不幸にするということだと気が付いた。家族なのに、不幸にしようとするのは間違っているだろう?」
「え?」
「家族なら、幸せを願うものだ……兄なら、家のことなら俺が何とかすると……弟の幸せを応援するべきだったんだ……」
「家族の幸せ……?」
お母様がもし生きていたら……。
お母様は私が幸せを願ってくれた?
子爵家を……出たいと言ったら……応援してくれた?
「愛を失うことがどれほど不幸なことなのか……。生きていくために、愛がどれほど大切なことなのか……俺はアイリーン……君が、好きだ」
え?
「どうして、そんなことを言うのですか……」
「君があの男に襲われているのを見て、生きた心地がしなかった。頭が沸騰して、感情が抑えられなくなって……アイリーンを守ってやれない自分が情けなくて……そして、何より……他の男に触れさせたくないと……好きだと自覚した。いいや、愛してるんだ。」
「受け入れられません」
「なぜだ!」
ルード様を不幸にしてしまうから。ルード様が言ったんだ。大切な人の幸せは願うものが当たり前だと。
ルード様に幸せになってほしいのだから……。
ところで……
私は主人公が動かない話が苦手です。苦手というのは嫌いなのではなくて、読むのは好き。
でも書くのが苦手……と言う意味で。苦手というか書けない!
私の場合「キャラが勝手に動く」と言われる感じで小説を書くタイプなんで。
主人公が動かないというのは、キャラが動かない……だから筆が進まないという致命的な……。
それで、この話、全然主人公が動かなくて「うぐぐ、ぐぐぐぐ」ってなりながら書きました。
ラストあたりでやっと動いてくれたので、そこからはすいすーいと筆が載りました……。
ああ、そう、なんか、昔「主人公が動かないの苦手なんです」ってSNSか何かでつぶやいたら「ディスってる」とか言葉足らずで変な受け取られ方誌ちゃったことがあって……。
読むのは主人公が動くもの動かないもの問わず好きなものは好き。
今回はね、主人公は動かないというよりも「動けない」と思って書きました。
よく「なんでそんなにブラック企業なのに辞めないの?」とか「なんでDVされてて離婚しないの?」とか言う言葉を聞いたりするじゃないですか。
だけど、本当に考えられない、正常な判断ができない、動けない……そんな状況ってあると思うんですよね……と。自己肯定感を引き上げてくれたということに関してルードは働いたんですよね。ヒーローとして何もしていないようで……一番大切な主人公の自己肯定感を引き上げることで、考えることができるようにしてあげた……。とかいい感じでルード褒めてるけど、いやいや、最後まで読んでくだされば分かるけど、ルード、お前、負けヒーローだよ!




