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「うわぁ、これ、なくなってたら疑われるやつだ……怖……」
整然と並べられている宝石類。1つでも場所が入れ替わっていたら疑われそう。触れずにそのまましめる。右側の上段には化粧道具。下段にはブラシとヘアアクセサリー。
左側の上段には封筒がたくさん入っている。
「何?」
少しふくらみがある封筒もある。宛名も何もない。小物を小分けして入れてるのかな?★★
一つ手にとると、ちょうどハンカチが入っていそうな膨らみがあった。開いている口からのぞくと、薄水色の布が見える。
「ああ、これなら使えそう」
布を抜き出すと、手紙がはらりと落ちてきた。
うわっ。
『次はいつ会えるかな。また熱い夜を過ごそう』
と、書かれている。正式な手紙ではない。署名もない。宛名も。
裏にはアイリーンの走り書き。名前と日付と場所が書かれている。
「何これ……」
アイリーンには恋人がいたの?それで思い出の品を大切にとってあるの?
お母様の本に挟んである押し花を頭に思い浮かべた。
ごめんなさい、勝手に見て。
……ああ、でも、もしかしてアイリーンのお腹の子のヒントがあるんじゃない?
悪いとは思ったけれど、もう一つ封筒を手にとり中身を見る。
こちらは手紙……いや、メッセージカードだ。
『君の瞳と同じ色のイヤリングをプレゼントしたいんだ。次の夜会、あそこで待っているよ』
このカードも裏には日付と名前と場所が書いてある。
だけれど、名前はハンカチと一緒に入っていた人の名前と違う。
「……これは……?アイリーンはモテていていろいろな人から手紙やプレゼントをもらっていた?それとも、これはヴァイオレッタ宛?どちらにしても……」
好きな人が複数いて大切に残しているわけではないの?
他に2つ封筒の中を確認した。メッセージカードが複数枚入っている物もあった。同じ封筒には同じ人からのカードがまとめられているようだ。もう一つには脅しかけるような言葉も書いてあった。
『相手にしてくれないなら、代わりに妹のアイリーンに相手をしてもらってもいいんだぞ?俺にとってはお前らなんて遊び相手以外の何物でもないんだからな』
これは、ヴァイオレット宛ての手紙だったのか……。
同じように裏には名前と場所と日付が書いてある。
なぜ、こんな風にとってあるんだろう。
「まさか……」
父親候補は20人。
誰から何をもらったのか、どこで会ったのか記憶が混乱しないようにメモしていた?
だとしたら……。
脅しのような言葉、この人とは結婚したくない。幸せになれるわけがない。そもそも結婚はできないんだろう。妾か、下手したら修道院に入れられ、子供は孤児院にでも捨てられてしまうかもしれない。
ぞっとして体を抱きしめる。
なんで、こんな人まで相手にしたのよアイリーン……。
大きなため息が出た。
リストにお父様が書き込んだ補足以外に、この手紙から人となりが分かりそうな情報もありそうだけれど、今は時間がない。後にしよう。
「これを使ってはダメよね……」
封筒に手紙とハンカチを戻して引き出しをしめる。
最後に左の下段の引き出しを開く。
中には箱が入っていた。
細工のなされた木箱。蓋を開こうと思って手を止める。
ハンカチをこんな木箱に入れるわけはない……。これ以上理由もなくのぞき見のような真似をするわけにはいかない。




