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「ああ、私の話はいいわ。今はそれよりも、あなたのことよ。ヴァイオレッタ、正直に答えてちょうだい」
正直に?
「あなたは、幸せなの?」
「え?」
私は、幸せなのか?
不幸だと思うこともない。不幸だと思わないことは幸せということなのだろうか?
分からない。だって、幸せってどういうことなのか、考えたことがないから。
答えられずにいると、ジョアンナナ様が困った顔をして息を小さく吐き出す。
「では、質問を変えるわね」
質問が変えられるということにホッとする。
「この間のお茶会の時にドレスを着せてくれた使用人は、あなたがアイリーンではなくヴァイオレッタだと知っていたの?」
ああ、この質問ならすぐに答えられる。
「はい。この前のお茶会の時は、子爵家の使用人は私がアイリーンの代わりにお茶会に出ることを知っていました」
うんとジョアンナ様が頷いた。
「ということは、ひどい扱いを侍女から受けていたのはアイリーンではなく、ヴァイオレッタ……あなただったということね?」
あ。今の質問はそれを確かめるために?
「……あなたはルードが、ヴァイオレッタがアイリーンをいじめているということを否定していたけどこういうことだったのね……」
「ち、違います。アイリーンが命じていたわけでもありませんっ」
私の言葉に、ジョアンナナ様が眉根を寄せる。
「使用人が勝手にやったと?」
私はそう思っている。アイリーンは私を傷つけるようなことを命じたりはしていないと。
「おかしいわね。独断で貴族令嬢にここまでする使用人なんて聞いたことがないわ……。アイリーンではないとすれば、使用人の雇い主である子爵が命じていた?それとも、継母にあたる子爵夫人かしら?」
首を横に振った。
「お父様もお義母様も私をいじめろなんて命じてないと思います……」
下を向いてしまった。
そんな風に見えてしまうのだろうか。私は家族に愛されていないどころか、疎ましがられ、虐める対象になっていたと……。
「ごめんなさい。聞かれたくないのであればこれ以上このことは聞かないわさぁ、お茶を飲んで。甘くすると気持ちが落ち着くわ」
ジョアンナナ様は明るい声を出した。
たくさん気を使わせてしまっている。
「お砂糖はいくつ入れる?そういえば、ソフィアはいつもスプーンにひとすくいの半分くらいを……」
ちょうど、砂糖をスプーンに半分すくったところで手が止まった。
「あら、まぁ。ふふ。親子ね。味の好みまで似るのかしら?ソフィアもそれくらい砂糖を紅茶に入れていたわ」
「お母様も……」
マーサがいなくなってから、こうしてお母様の話をしてくれる人は一人もいなくなってしまった。
また、誰かからお母様の話を聞けるなんて思っていなくて、思わず涙ぐむ。
「あらあら。どうしたの?」
「申し訳……ありませ……ん。お母様の話を聞けて、嬉しくて……」
「お父様から話を聞くことはないの?」
首を横にふる。
「まぁ、そうねぇ。後妻の手前、前妻のことは話にくいのかしらね……だけど、二人きりの時間を取って話をしてあげるくらいは……」
「お父様は……お母様のことを憎んでいたので」
思わず気が緩んで言わなくてもいいことを口にしてしまう。