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 アイリーンが出産して戻ってきても、ルード様と会わなければ話がかみ合わなくて不信に思われることもないだろう。

 ルード様は、まだ何か言いたそうにしていたけれど、私の意志が固いと思ったのか、小さく首をふり、部屋を出て行った。

 ……ぽたぽたと涙が落ちる。

 これで、よかったんだ。

 食欲なんてないけれど、せっかく用意された食事を無理に食べる。

 スープはすでに冷めてしまっていた。

 パンをちぎってスープに浸して口に運ぶ。

 食べ終わったのを見計らって、侍女が食器を下げてお茶を入れてくれた。

 ……私とルード様とのやり取りを見ていただろうが、何も言わない。表情にも見せない。

 これが、本当の侍女の姿なんだろう……。

 ルード様に生意気な口を利ける立場だと思ってるの!と、子爵家だったらお茶をぶっかけられていたかもしれない。

 お茶が終わると、客間へと案内された。

「少しおやすみください」

 ベッドサイドの机の上には、水を張ったたらいと手拭いが用意されていた。

 目を冷やすために準備された物だとすぐに気が付いた。

 泣いて腫れた目……。何も言わずに用意されている。ありがたくて、その優しさにまた泣きそうになった。

 本当なら、ここまでしていただく必要はないと、すぐに帰った方がいいのだろう。

 だけど……。

 少し、休みたかった。

 きっと子爵家に帰れば、すぐにお父様が「どうだったんだ」「失敗してないだろうな」など、質問攻めにするだろう。

 本当に疲れていて……。体じゃなくて、心が。少しの時間でいい。休ませてほしいと……。一人になって泣く時間が欲しいと……悲鳴を上げている。

「ありがとうございます」

 お礼を言うと、侍女は部屋を出て行った。

 ふぅとため息をついてベッドに腰掛ける。

 ……ルード様に好きだと伝えてしまった。

 酷い女だ。

 ルード様は高位貴族だろう。子爵令嬢と結ばれるはずなんてないもの。

 しかも、アイリーンは平民の血が流れていると蔑まされる立場。そしてヴァイオレッタは娼婦のようだと悪評のある上に、父親に自分の子じゃないと言われるような立場だ。

 高位貴族でも、継ぐべき領地がない三男や四男であれば子爵家に婿入りして領地持ちになることもできるだろう。

 でも、ルードは「弟のしりぬぐいをしなければならない」と言うようなことを言っていた。きっと、責任のある立場……嫡男なのだろう。

 つまり……どうあがいても、私が「好きだ」と言ったって、ルード様は思いに答えることはできないのだ。

 ごめんとかすまんとか謝らせてしまう。

 それを分かっていて告白したのだ。ひどいと言わず何と言おう。

 ……もし、ルード様が私のことを少なからず思っていてくれて……。思いに答えてくれたとしたら……。

 逆に「将来の約束もできないのに、好きだと言う気持ちを利用してもてあそぼうとしている最低な男」だと気持ちが冷めるだろう。

 ……つまり、謝るか嫌われるかの選択肢がないことを私は言ったのだ。

 ふ、ふふ。ひどいよね。

 ただの自己満足。私が……あふれる思いを伝えたかっただけ。それだけのこと……。

 少し気持ちが落ち着いたからか、お腹がいっぱいになったからか……眠くなってきた。

 少しだけ、休ませてもらおう。


「アイリーン」

 トントントンというノックの音と、アイリーンを呼ぶ声に目が覚める。

 目に映ったのは、見慣れない豪華な部屋。

「あ……」


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