表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/83

28

「以上でよろしいですか?」

 金額を聞いて「これもください」と、もう1つ追加した。


 屋敷に戻ると、すぐに屋根裏部屋にこもって刺繍を始める。

 チクチクと刺繍を続けていると、いろいろなことを思い出す。

 最後に令嬢に囲まれていろいろとひどいことを言われたことも。

 アイリーンは、いつもあんなことを言われているのだろうか。

 家では「庶民の血が流れていると馬鹿にされる」ということなど一言も聞いたことがない。

 私が聞いたことがないだけで、お義母様やお父様には話してるのだろうか?

 お義母様はあなたを利用してお父様と結婚したんだとか、お父様も貴族とのつながりを持つために利用してるだけだとかとも言っていた。

 愛されているわけじゃない、利用されてるだけだと。

 ……もし、それを少しでも信じていたら、お父様やお義母様にも言えないでいるのかもしれない。

 アイリーンは……、お茶会に出かけるのが好きだったのかな。

 今日は、たまたま場違いな集まりに行ってしまったからひどく悪く言われただけ?

 普段の下位貴族たちの集まりでは何も言われないのかな。

 お友達には、いろいろ相談していたのかもしれない。

 うん、きっとそうだ。お友達に会うためにお茶会に頻繁に参加していたんだよね?きっと……。

 親しくしていたお友達がいるなら、やはりなるべくお茶会にはいかない方がいいだろう。流石に、バレないわけがない。

 次はお父様と参加するのだ。友達と話をするような時間を持たなければ大丈夫。きっと。

 日が沈んでからは、特別にランプを使わせてもらえた。

 ランプの明かりでは、糸の微妙な色の違いが分からないため、カスミソウを仕上げていく。白は薄暗い明りでもよく目立つ。

 日が昇ってからも手を止めることなく刺繍を続け、お父様が朝食を終える時間には完成した。

 我ながら、とても素敵なヒヤシンスとカスミソウの刺繍が完成した。

 お店で見た売り物にも負けないできだ。

 ……もしかしたら、よく頑張ったと、お父様に褒めてもらえるのではないか……?なんてほんの少しだけ思っていたのに。

「これはいったい何のつもりだ!ふざけているのか!」侯爵夫人にお礼として贈るハンカチだぞ?」

 お父様はハンカチを一目見て怒り出した。

「女性に青や紫なんか贈る馬鹿がいるか!ピンクや黄色、もっと華やかな女性らしい色のものがあるだろう!」

 どうして、私は褒めてもらえるかもなんて思ったんだろう。

「……申し訳ありません。いただいたドレスの色が……」

「ちっ。言い訳か」

 お父様の舌打ちに、それ以上言葉を続けることができなかった。

「まぁいい。お礼が遅くなれば失礼にあたる。ちゃんと手紙を書いてハンカチを送っておけ。ハンカチは自分が選んで刺繍したと書いておけよ。お前が個人的にその色を選んだと分かるようにな!子爵家のセンスが疑われたらたまったもんじゃない!」

「はい……」

 小さく返事を返して、お父様の執務室を後にしようとしたところで声が掛かる。

「昨日は一日仕事をさぼったのですから、今日はしっかり働いてくださいね」

 大量の書類を、家令に渡された。

 アイリーンの代わりにお茶会に出席するのも、徹夜で刺繍をするのも……。仕事じゃないんだ。

 渡された書類を見て小さくため息が出た。

「ああ、それから、一人侍女がやめてしまったのでその分の仕事もお願いしますね」

 屋根裏部屋で手紙を仕上げ、ハンカチにアイロンをかけて手紙とともに封筒に入れて、届けるようにお願いする。

 書類仕事をしようと部屋に戻ろうとしたときに通いの侍女につかまった。

「ちょっと、お嬢様、どういうつもり?」

「え?」

「アイリーン様と奥様がいないからって好き勝手やってんじゃないわよ!」

 腰に手を当てた侍女が、はたきで、私の顔の周りをパタパタとはたいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ