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「手紙を送ってもいいかい?」
「いいえ……お父様が許さないわ」
アイリーン宛で出しても、私の手元には渡らないだろう。いや、私宛ならなおさら手元には来ないはずだ。
「ああ、そうだな……。じゃあ、また招待状を」
今日のような高貴族からの招待状ならば、お父様も無視することはないだろう。けれど……。
首を横にふる。
「お義姉様が静養しているというのに、私ばかリ社交するのは……」
ルード様が辛そうな表情を見せる。
「そうか、それでまたひどい仕打ちを受けるということか……」
小さく首を横にふる。
「次は」
「来月の、家督を継いだ侯爵様のお披露目の会には父とともに出席する予定になっていたと思います」
ルード様は、ただ、頷いた。
会えるといいなとも、その日に会おうとも……会いたいとも、何も言わない。
当然だ。
約束も欲しがらないと、私が言ったのだ。
ルード様だって、何もあげられないと言ったのだ。
「では、失礼いたします」
立ち上がり簡単に礼をする。ルード様も立ち上がったけれど、エスコートは断った。
侍女がお茶会の会場まで連れて行ってくれた。
「染み抜きをしたドレスは馬車に運び込んでありますので」
「何から何までありがとうございます。あの、ジョアンナ様にもお礼をお伝えください」
家に戻ったら、お礼の手紙も書かなければ。何かお礼の品も準備した方がいいのだろう。そうなるとお父様に相談しなければ……でもどうやって?まさか、子爵家の侍女のせいでと言うわけにもいかない。きっと言えば、私がぼんやりしていて気が付かなかったんだろうとか、ドレスを汚したのを侍女のせいにするなとか言われそうだ。
お茶会会場の端を目立たないようにうつむいて歩いていく。
「あら?場違いな子爵令嬢はもうお帰りですか?」
声をかけられて顔を上げると、3人のご令嬢がいた。
……誰だろう。アイリーンの知り合いだろうか?
「やだ、そりゃそうよ。子爵令嬢というだけじゃなくて、愛人の子ですもの」
「違うわよ、正妻を殺してその地位を奪った元愛人の子でしょう?」
「ああ、そうだったわ。しかも、平民。ぷーくすくす」
「とんでもなく場違いよねぇ。子爵の子であり、半分平民の子」
何?
「ち、違います……殺されたわけでは……産後の肥立ちが悪く……それに加えて……」
お父様が自分の子じゃないとお母様を追い詰めたから……。アイリーンの母親の存在も、そのころは知らなかったはず。マーサも何も言っていなかった。
「あははは~だぁれが信じるの?」
「分かってないようだから教えてあげるけど、人を殺すのに毒も刃物も必要ないのよ?」
「本妻と同じ年の子供がいる、それが答えじゃない?なんなら少しだけ本妻の子供よりも遅くに生まれたなんてねぇ」
「存在自体が、毒よ」
「そう、あんたなんて生まれてくるべきじゃなかったのよ!」
生まれてくるべきじゃない?
なんて……ひどいことを。
「やだぁ、何?文句でもあるわけ?半分だけ子爵の娘が伯爵令嬢の私にたてつこうというの?」
「今は、助けてくれる男性は誰もいないわよ?」
「残念だけど、このお茶会は高貴な者の集まりだから。あんたなんか相手にする男は一人も来てないわ!」
「それにしても、本当にあさましい。母親もあさましければ、娘もあさましい。子爵家を姉を差し置いて継ぐんでしょ?」
「まぁ、姉はあんなんでも両親とも貴族だからどこかに貰い手はあるでしょうから。母親が庶民で元愛人なんて、子爵家の爵位というオマケがない限り誰にも相手にされないでしょうし、仕方がないでしょうけど」