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「ドレスに、針が仕込まれていたと聞いた」
「え?針……ですか?」
どうりで。木くずなどのゴミが入っているにしては痛いと思ったら……。
「あまり驚かないんだな?よくあることだから、驚かないのか?」
「えっと……」
よくあること?ドレスに針が仕込まれていることが?
「仕立てたときにうっかり針が残ることは……ないかもしれませんが、よくあることでは……」
どうしよう。ドレスなんて普段は着ることがないから、こういったことがよくあることなのかどうかも分からない。
ルード様の顔が厳しい。
「差し出がましいようですが、よろしいでしょうか」
侍女が口を開いた。
「万が一針が残っていて貴族に傷をつけるようなことがあれば、どのように罰せられるかわかりません。そのため、
土の工房もお針子は必ず作業の前後に必ず針の数を数えているはずです」
そうなんだ。
「もちろん使用人が簡単な直しをする場合も同じように、針の数の確認をいたすのが常識かと。針1本も備品として帳簿に記録もされているはずですし」
確かに、帳簿の経費としての購入品目に、針や糸と上がってくることもあった。
「やはり、噂は本当だったんだな」
噂?
「ヴァイオレッタが妹をいじめているという噂だ」
そんな噂が?
「あの、違いますっ」
私は妹をいじめてなんていない。
もしかしてアイリーンが噂を流しているの?私に虐められたって?
でも、何の得があるの?だって、アイリーンはヴァイオレッタの姿でも社交をしているんだもの。
妹をいじめているなんて噂が広がれば、社交しにくくなるはずなのに……。
ああ、でも、もしかして。二人が並んで舞踏会に顔を出すことはないから、仲が悪いということにしているのかも。
仲が悪いのは、虐めているからと勝手に噂になったとか?
「確かに、仲がいいとは言えませんが、虐められているわけでは……」
「どうして庇うんだ?アイリーンは優しいな」
どうして信じてくれないのだろう?
”私”は義妹をいじめたりしていないのに。
「お義姉様は、今、領地で静養しています。だから、お義姉様の仕業じゃないですっ」
それに、アイリーンだって……。どれだけひどいことを言ったりしたりしても、使用人扱いをしても……一度も体を傷つけるようなことはしてこなかった。
水をかけられることはあっても、やけどするようなお茶をかけられることはない。きっと、針のことだって、アイリーンは関係ない。
「大方、使用人に命じてやらせたんだろう」
ルード様が、大きくため息をつき、私の顔を見た。
「……辛かっただろう。かわいそうに……」
本当に違うのに……どうしたらわかってもらえるだろうか?
「ヴァイオレッタ……なんてひどい女だ。聞きしに勝る悪女だな……。許しては置けぬ」
憎しみのこもったルード様の声に、涙が落ちた。
ルード様の中では「ヴァイオレッタ」はひどい女。悪女……。
憎しみを持って口にする名前……。
「もう、お義姉様の話は……」
「ん、ああ。辛いことを思い出させてしまったか」
ルード様の口からこれ以上「ヴァイオレッタ」を悪く言う言葉は聞きたくない。
「……はぁ。弟の後始末で仕方なくと思っていたが……。アイリーン……君を救うためでもあるならば……」
私を救うため?