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「こちらのドレスはウエストをリボンで締めて体に合わせるタイプなのでウエストが違っても問題ありません」
ふんわりと柔らかく広がるスカートに、パフスリーブ。胸元はあきすぎずにフリルが付いていて、かわいらしいデザインのドレスだ。
形はかわいらしいけれど、色は大人っぽい。
まるで……。
着替え終わり、隣の部屋へと案内される。
ルード様が、立ち上がって目を見開いた。
「そのドレスは……」
擦れた声でつぶやかれる。
ルード様の胸に挿したヒヤシンスの花のような色のドレス。
「侯爵夫人のジョアンナ様が気を使って……貸してくださいました……」
私の言葉を侍女が訂正する。
「いえ、お貸しするのではなく、差し上げると」
えっと驚く。
「似合っている」
その言葉に、部屋にあった鏡に映る姿を見た。私とルード様が並んでいるのが映っている。
「まるで、俺の婚約者のようだ」
ルード様がつぶやいた。
「冗談でも……そんなこと……」
言うべきではないと。
確かに、婚約者の瞳の色のドレスを着ることはある。男性がドレスの色に合わせたハンカチや花をチーフポケットに入れることもある。
「すまない。つい……そうであれば……いや、なんでもない。言うべきではなかった」
いいえ。
冗談でもそんなこと言うべきではないのは分かっていても、言われて心が歓喜にむせいでいる。
芽生えた気持ち。
誰にも言えない恋心。
ルード様との貴重な時間。
大切に重ねられていく思い出と言う宝。
確かにこの時、私は大切にされたと。
マーサがいなくなってから誰からもぞんざいに扱われていた私を。
ルード様は気遣ってくれる。
アイリーンのフリをしているけれど、ルード様と私は初対面だった。アイリーンとしてじゃない。私を、見てくれる。
アイリーンじゃない私として……。
「それで、話は聞いた」
「え?話とは?」
突然ルード様が話を変えた。
「……焦りすぎだな。まずはお茶をいただこう。気持ちを落ち着かなければ。今にも殴り掛かりそうだ」
その言葉にびくりと肩をすくめる。
「ああ、すまない。汚い言葉で驚かせてしまった。ほら、お茶が入ったよ」
カップの中を見て、どきりとする。
青いお茶だ。
「こちら、エディブルフラワーの一つであるコーンフラワーのお茶です」
まるで、ルードの濃紺色の瞳に合わせたような深い青い花びらがカップに浮かんでいる。
綺麗……。だけれど。大好きな人の目の色は、報われない恋の色だ。
切なさに、口に運んだお茶の味も分からない。
「落ち着いたかい?」
カップのお茶が半分になったころに、ルード様に尋ねられた。
落ち着くはずがない。好きなのだと認めてしまえば、ただただ好きな人が目の前にいることにドキドキしている。
あとどれくらい、ルード様と過ごすことができるのか。何一つこの先の未来を思い描けない相手なのに。
ご覧いただきありがとうございます。
そろそろもう気が付いている方もいると思いますが……。
私らしくない小説です。
いつもは元気で動き回る主人公なのですが、今回、ほんとーーーーーに、主人公が動かない。
ゆえに、筆が載らない。勝手に小説が動いていくというあの感じがなくて、書くのが大変でした。それでも「完結まで書くんだ……」を目標に書き進めました。なぜそこまでして書いたのか……。予定よりも3日オーバーして書き終わりました。約2週間で約12万文字。何やってんだろうね……。そして話は予想外の展開に。アルファポリスのあとがきにその時々のいろいろ書いてあるんだけど、当初「アイリーン最後どうしようか」ご意見も止めたりね。




