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 私が生まれてから、父は母をなじり続けた。産後体調が回復しないまま命を失った母の遺書には「浮気はしていない」という悲痛な訴えが書き綴られていた。髪の色は祖母に似たのだろうと書かれていた。それから、生まれたばかりの私への愛の言葉で締められていた。

 しかし、浮気をしてできた子だと思い込んでお父様は私を家には置くが使用人の子のように扱った。

 お父様が私の髪をさらに力を込めて引っ張る。

「じゃあ、お前のこの髪の色はなんだ?私もお前の母親も、綺麗な金髪だったんだぞ?祖母の髪色だって言うんだろ?騙されるものか!肖像画を見たら確かに茶色に見えなくもないが、金色に近い茶色だった。こんな薄汚い茶色い髪などしていなかったわ!」

 髪の毛引っ張り、机の角に頭をぶつけられた。

「うぐっ」

 あまりの痛みで目の前が暗くなる。

「貴族の娘として読み書きとマナーを身につけさせてやったんだ、その分働くのは当然だろう!今日はさぼっていた罰で夕飯は抜きだ。さっさと処理しろ!分かったな!」

 ぶつけたところに手を当てる。ぬるりとした感触に、血が出ているのかと焦って手を見る。

 血の色はない。このぬるりとした感触は、さっきの濡れた雑巾で濡れていたせいだったみたいだ。

 ほっと息を吐き出す間に、お父様は怒って部屋を出て行った。

 家令は運んできた書類を机の上に置くと、私の横にしゃがんだ。

「かわいそうに、ヴァイオレッタお嬢様」

 家令は、義母の弟で、商家の3男だった。母が亡くなってすぐにお父様は義母と再婚した。

 義母は、私と同じ年の義妹と、弟を連れて子爵家に嫁いできた。

 私は、この屋根裏部屋で7歳になるまでマーサに育てられた。

「もう、子守はいらないでしょう。7歳になれば十分一人でなんでもできるでしょうから」

 義母にマーサは首にされ、マーサがしていた仕事は全部私に押し付けられるようになった。

 そして、最近は……。

「助けてあげましょうか?」

 私の体を執拗に家令は触るようになった。

「旦那様も困ったものですねぇ。ヴァイオレッタお嬢様とアイリーンお嬢様がこんなにも似ているのはなぜかと考えもしない。何より血がつながっている証拠だと誰が見ても分かるというのに」

 家令の言う通りだ。

 私の母と義母は似ても似つかない顔をしているというのに、アイリーンと私はそっくりだ。それは二人とも父親に似ているからだろう。……なのに、なぜかお父様は私を母が浮気してできた子だと信じて疑わない。

「私なら助けてあげることができる」

 背中を指の先で撫でられ、そのまま腰に手を回される。

「いいえ。結構です」

 その手から逃げるように立ち上がり、机の前に歩いていく。

「子爵令嬢として扱われたいと思わないのですか?もっといい部屋にうつって、もっときれいなドレスを着て、もっといい物を食べて、私なら、そんな生活を送れるように手助けをすることができるんだ」

 家令が一歩、また一歩と私に近づいてくる。

 後ずさりしたい気持ちをグッとこらえて、睨みつけた。

 何を今さら。

 子爵令嬢として扱うようにとお父様に言うなら、もっと前に言えたはずなのに。

 私をいやらしい目で見るようになってから急に助けてあげるなんて言われたって、その手を取るわけないのに。

 だって、そうでしょう。

「アイリーンが私の婚約者を探してくださっています。きっと、お父様の要望通りに、お金持ちを捕まえてくださるでしょう。そうすれば……きっと、部屋もドレスも食べ物も手に入りますわ」

 暗に、私に手を出したら結婚した後に復讐するわよという脅しを含ませる。

「くっくくくく。本当にそう思ってるのか?アイリーン様が、いい縁談を持ってくるはずないだろう。お金持ちになって、お前が自分よりいいドレスを着るのを見ることをアイリーン様が望むとでも思うのか?ふんっ、まぁいい。いつまで馬鹿な夢を見ていられるかな?」

 家令が背を向けてドアに手をかけたことにホッと息を吐き出す。


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