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 私が思わず顔をしかめたので、ルード様が焦った声を出した。

「なんでもないの。その……ドレスのなかに何か入ってしまったみたいで、馬車に乗ったときからチクチクしていて……」

「どこ?」

「背中です。その、取るわけにもいかず……」

 ルード様が、私の背にかかっている髪をかき上げた。

「あっ」

 思わず、恥ずかしさに声が出る。

 別に服を脱がされたわけでもないと言うのに。髪で隠れていた背中を見られただけというのに。

「血が出ているじゃないかっ」

 え?血が?どおりで、チクチクするだけにしてはちょっとひどい痛みを時々感じると思った。

「おいで」

 ルード様が乱暴に私の手を掴むと、ずんずんと歩いていく。怒っているようにも見えるけれど、心配のあまりだと思う。

 私の身を心配してくれる。そのことで胸がいっぱいになった。

 馬鹿みたいだ。

 もう、私の胸の中はとっくにルード様でいっぱいだ。

 これが、恋なんだと。

 とっくに自覚している。

 ルード様にもらった花で作った押し花を見るだけで泣きそうなくらい幸せな気持ちになる。

 辛いことがあっても、これさえあれば、きっとこの先も大丈夫だと。そう思えるくらいに……。

 私は、ルード様が好き。

 分かっている。

 絶対にかなわない恋だと言うのは。

 ルード様は花を渡したのはアイリーンだと思っている。金の髪が美しいアイリーン。

 社交界の華だと言われるアイリーン。

 そして、私は……ヴァイオレッタ。遊んだ末に子供を身ごもり産んだことになるヴァイオレッタだ。生まれた子を盾に結婚を迫る女になる……。

 もし、本当は私の子じゃないと言えばどうなるんだろう?

 ……きっと、お父様は怒って私を修道院にでも入れてしまうだろう。そうなれば家族を作ることもできなくなる。

 それくらいなら、姪を我が子として、家族として生きていく方がいい。愛されるかどうか分からないけれど、夫もできる。もしかしたら子供も増えるかもしれない。

 叶わない初恋だと。分かっているけれど、どうか許してください。

 視界の端に、ルード様の胸に挿した紫のヒヤシンスが映る。

 あなたを好きでいることは許してください。

 手を繋がれていることに幸せを感じているのを許してください。

 ルード様に手を引かれて連れていかれたのは、侯爵家のお屋敷だ。

 勝手に屋敷に入るなんて……!と戦々恐々としているけれど、ルード様はお構いなしだ。

「どうなさいましたか?」

 お茶会が開かれているのは使用人も分かっているため、こんな時の対応にも慣れているのか、すぐに使用人の一人がルード様を制止しつつ、にこやかに対応した。

「部屋を貸してほしい」

 ちょっと驚いた顔をしただけで、使用人はすぐに元の表情に戻った。

「申し訳ございません。今日のお茶会ではそのような趣旨はございませんので」

 ルード様が、慌ててつかんでいた私の手を離した。

「いや、すまない。言葉が足りなかった。そういう意味ではない」

 そういう?

 部屋を貸す趣旨の催し?

「あっ!」

 その意味することに思い至って顔が真っ赤になる。

 夜会では、盛り上がった男女が部屋を借りることがあると聞いたことがある。

「侍女も借りたい。彼女は怪我をしているんだ」


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