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 明らかに場違いだと感じながらも、挨拶をするべき主催者を探して視線を泳がせる。

 誰が誰だか分からない。

 どうしよう。誰かに尋ねようにも知らないことを不審がられる可能性もあるし、声をかけた人が知り合いであるなら話しかけたときの言葉遣いでも不審がられたら困る……それに、明らかに歓迎されてない空気で、話しかけにくい。

 手にジワリと嫌な汗をかいてきた。

「アイリーン、よかった。来てくれたんだ」

 弾んだ声がかけられ、目を見開く。

「ルード様」

 驚く私に、ルード様は手を差し出した。

 会場の女性たちがルードを見ている。

「あの……」

 ここに来ているということは、ルード様にも婚約者がいないと言うことだろうか……。

「見せたいものがあるんだ」

 すぐにでもどこかへ引っ張って行かれそうになり、足を止める。

「今来たばかりで、侯爵様へのあいさつもしてないので……」

「ああ、挨拶はいらないよ」

 え?そういうルールなのだろうか?

「アイリーンはお茶会の招待客じゃないから」

「それは……」

 侯爵家のお茶会に招かれるような立場にないと……そういうことだろうか。

「私、帰ります」

 誰かがいたずらで招待状を出したのか。アイリーンは……社交界であまり好かれていないの?

 そんなはずないわよね。

 どちらにしても……。

 この場にお前はふさわしくないなんて言葉を、ルード様から聞くなんて……。

「か、帰らないで」

「でも、招待客でもない私がいるわけには……」

 手を掴まれてしまえば振り払って駆けだすようなこともできない。

 周りの目がこちらに向いている。

 みっともなく泣き出すこともできない。

 ちらちらと周りを気にしていた私の様子にルード様がハッとする。

「す、すまない。言い方が悪かった。俺は……その、気が回らなくて済まなかった……あちらで話をしよう」

 ルード様が悪いのではない。

 場違いな場に来てしまったアイリーンが悪いのだ。いいえ、アイリーンですらない。社交に慣れていない、使用人同然の私が。アイリーンなら、こんな場合にももしかしたらうまく立ち回ることができるのかもしれない。

 動かないでいる私の顔をルード様が覗き込んだ。

「それとも、俺と話をするのは迷惑だろうか?」

 りりしい眉をゆがませて、鋭い目を不安に揺らして私の顔を見るルード様。

 こんな風に誰かに気遣われたことが今まであった?

 マーサがいなくなってからの私のことを、これほどまで気遣ってくれる人は他にいた?

「いいえ、いいえ……例え場違いだと思われても……来てよかったです。ルード様とお話できるんですから」

 私の答えに、ルード様がほっとしたような表情を見せる。

「よかった。行こう」

 ルード様に手を引かれて、お茶会の会場から離れる。

「さっきは誤解させるような言い方をして悪かった。その、招待客じゃないというのは、俺がハンリー侯爵に頼んで招待客リストになかったアイリーンを呼んでもらったんだ。だから、お茶会の招待客じゃなくて、本当は俺の客なんだ。それはハンリー侯爵も知ってる。だから挨拶をする必要もない……」

「え?ルード様が、私を招待……?ハンリー侯爵様にお願いして?」

 どうして……もしかして、ルード様は、高位貴族に招待されれば断れないだろうと思って……?

 そこまでして私に来てほしかった?


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