13
乱暴にカツラがはぎとられる。
ルートが髪にさしてくれたピンクの花が散り、花びらを落とした。
金髪に、とても合う色だ。
はらりと、カツラをかぶるためにまとめていた髪がほどけて顔にかかった。
茶色の髪が、花の横にかかる。途端に、ピンクの色がくすんで見えた。
馬車が止まり、お父様が馬車を降りると、口から言葉が漏れた。
「ずるい……アイリーンばかり……」
初めて、アイリーンの金髪をうらやましいと思った。
それから3日後。
狭い屋根裏部屋で書類仕事をしていると、お父様が部屋に訪ねてきた。
「ヴァイオレッタ、明日お茶会に参加しろ」
「はい?あの、次に参加しなければならないのは、確か来月の……」
どういうことだろう?明日だなんて、ずいぶん急な話だ。
お父様がぽんっと、机の上に封筒を置いた。
読めということだよね?手に取って中身を取り出す。
「え?侯爵家のお茶会?」
今までアイリーンが参加していたお茶会は、せいぜい伯爵家主催のもの。昨日のような大規模な舞踏会ともなれば、下位貴族も呼ばれるけれど、小規模になればなるほど、同じような階級の貴族しか呼ばれなくなる。もちろん友人関係や親せき関係で、階級に関係なく呼ばれる者もいるけれど……。
アイリーンはいつも、うらやましい、侯爵家のお茶会に御呼ばれしたと伯爵令嬢に自慢された、悔しいと愚痴っていた。
「なんで……?」
「大方、この間の舞踏会で公爵家に優先的に挨拶していたのを見ていたんだろう。公爵家と懇意にしていると思われ、仲良くすれば特になると思ったか……。くくく、いくら遠縁と言っても、公爵家と儀礼的でない言葉を交わせる立場になるだけでこうも扱いが変わるとはな……こりゃぜひともアイリーンにはルードの弟と仲良くなってもらわねば」
……損得でできる人間関係……か。
そうだよね。
……ルード様は、どうして私に声をかけてくれたんだろう。何の得もなかったはずよね。名前すら知らなかったみたいだし。アイリーンだと知ってからは……どうして、一緒に庭園に連れ出してくれたんだろう……。
なんの得が?
ううん、損得で話を考えるような人じゃないわよね……。
「いいな、明日だ。エスコートなしで、お前ひとりで行くんだ」
ひゅっと息をのむ。
「お父様は行かずに、私一人……ですか?」
「既婚者や婚約者のいる者が参加できない会だから当たり前だろう。いいか、絶対にバレるなよ」
はいと、素直に頷く。
「それから、何人か来ているかもしれん。お前の旦那候補だ。見ておけ。見るだけで近づくな」
お父様から20人の名前を書いたリストを渡された。
アイリーンが書いたものに、お父様が情報を書き加えてある。
「まったくアイリーンときたら、容姿やもらった物は覚えていても家名は覚えていない、婚約者の有無も知らない、ましてや既婚者かどうかも確かめてなかったんだ」
「え?」
「生まれた子が金髪なら、6人中3人は既婚者。1人は婚約者持ちだ。2人しか候補は残らない。銀髪が生まれたら最悪だ。候補はゼロ、お前は愛人になるしかない。しかも、金持ちとはいえ、婿の立場だ。本妻にばれないようにおとなしくしていないといけない……」
「もしかして……お金だけもらって、子供と二人で暮らすことになるんですか?」
どんな人だったとしても我慢しようと思っていたのに……。我慢する必要のない生活を手に入れることもできるの?
「文句は許さん。相手次第だ。たくさん金を出してくれれば使用人の一人や二人つけてくれるはずだ。それに、本妻に子供ができなきゃ、子供を養子として引き取ってくれるかもしれん」
お父様がどんっとテーブルを叩く。




