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花を咲かせるなんて……」
ルードが、庭師に尋ねた。
「花をもらってもいいだろうか」
「はい、お好きなだけどうぞ」
許可を取ると、ルードは1輪ピンクの花を摘むと、私の髪に刺した。
「俺には……これしかできないが……似合うよ」
ルードに花を贈られた。決して深い意味はないのだろうけれど……心臓がバクバクと高鳴る。
嬉しい。
でも、そんな喜びは一瞬で打ち砕かれた。
「アイリーン。金の髪に、ピンクの花がよく似合う」
まぶしそうに眼を細めたルードの目に映っているのは、私じゃない。
金髪のアイリーンだ。
私の茶色の髪には淡いピンクの花なんて合うはずもない……。
「私、そろそろ行かなきゃ。お父様が心配しちゃうわ」
私の心配などするわけがない。いいえ、今日ばかりは、何か失敗して正体がばれるようなことをしでかすんじゃないかと心配しているかもしれない。
「ああ、そうだね。そろそろ挨拶の順番もまわったことだろうし」
ルード様が手を出した。
「いえ、一人で戻りますので……ルード様は花を楽しんでください」
ルード様なら、遠回りの断りだと通じるでしょう。
「あ、ああ……」
ルード様が手を下ろしたことにホッと息を吐き出す。
「その、アイリーンは、次にどこのお茶会や夜会に参加する予定なのか教えてくれないか?」
「分かりません」
行けと言われた舞踏会があといくつあるのか。
アイリーンの出産まであと半年ほど。最低でもあと半年はアイリーンと入れ替わっているけれど……。
その間に、何度舞踏会へと足を運ぶことができるのか。
そこまで考えてハッとする。
バレたらどうしようと思っていた……。アイリーンの身代わりで舞踏会へ足を運びたくないと思っていたのに。
何度舞踏会へ足を運べるか考えるなんて。
「アイリーンは多くの会に足を運んでいると聞いたけれど……」
「あの……お義姉様が体調を崩して領地で静養中なので……心配で控えるように……していて」
ルード様がピクリとこめかみを動かした。
「そうだったな……ヴァイオレッガが倒れたという話は聞いている。アイリーンは優しいな。さぞ心配だろう」
「私は優しくなんてないですっ」
心配なんてしてない。
「お義姉様は、命に別状もないとお医者様に言われて……。でも少し休みが必要で……」
ルードがそうかと小さくつぶやく。
「何かショックなことでもあったのか……な?その、少し休みがというのはどれくらいだ?いつ領地から戻ってくるんだ?」
ルードの探るような質問に首をかしげる。
「あの、お義姉様のことを心配してくださるんですか?……本当に大丈夫ですので」
ルードが小さく首を振った。
「今日は、公爵家主催だったから参加したんだね……?上位貴族からの招待は欠席しにくいということか」
たぶんそういうことだろう。
いや、それだけじゃない。きっと、お父様は上位貴族主催の舞踏会ならば、多くの上位貴族が参加する。アイリーンを売り込むためか、自分がのつながりを持つためか。そのために参加を決めたのだろう。
あいまいに笑って返す。
「俺は……こんなことになるなんて……」
ルードが苦しそうな表情を見せて手で目元を覆った。