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 子爵家には令嬢が二人いる。

 私と義妹。

「じゃあ、私、今日は義姉様の代わりに舞踏会に行ってあげるわ!感謝してよね!」

 どぎつい紫のドレスを身に着け、義妹が馬車に乗り込んだ。

 今日は、どこの令息が迎えに来ていたのだろう。既婚者かもしれない。馬車にどの貴族が分からないように、紋章を外した馬車なのだから。

 義妹と私の容姿はよく似ている。同じように化粧をしてしまえば見分けがつかないと言われるほどだ。

「この、髪の色を除けばね……」

 妹は綺麗な金髪。私はくすんだ茶色。

 義妹はくすんだ茶色のカツラをかぶって、私のドレスを着て舞踏会へと3日と開けずに向かう。

 子爵家には令嬢が二人いる。

 天使のような微笑みで清廉潔白、天使のようなアイリーン。

 自由奔放で我儘、見持ちの軽い悪女のヴァイオレッタ。

 アイリーンはそのほほえみで男たちを魅了するけれど、誰の手も届かない。

 ヴァイオレッタはその色香で男たちを誘惑し、誰とでも寝る娼婦のような女。

 子爵家には対照的な令嬢が二人、それが世間の評判だ。


「本当はどちらもアイリーンなんだけどね」

 本物のヴァイオレッタである私は、義妹であるアイリーンが出て行った部屋の片づけをしていた。

 脱ぎ散らかされた服に、選ぶためにと放り出されたドレス。

 カツラから抜け落ちた毛や、おしろいの粉で床は汚れていた。

「さっさと、ここも片付けてよ!そっちも汚れてるわよ!」

 妹の侍女が雑巾を私の頭の上から落とす。

 しっかり絞り切っていない雑巾から、ぽたぽたと床に水滴が落ちた。

 頭はぐっしょりと濡れてしまう。

 雑巾を頭からおろし、バケツに入れ、エプロンで頭を拭く。

 その様子を侍女が腕を組んで見下ろしていた。

「何?雑巾を取ってあげたというのに、お礼の一つも言えないわけ?これは、アイリーン様に叱ってもらわないといけないわね」

 ニヤニヤと楽しそうに笑う侍女の顔。

「おい、ヴァイオレッタはいないか!」

 お父様の声に、侍女が雑巾を慌てて絞る。

「はい、お父様」

 立ち上がってドアを開くと、怒った表情のお父様が部屋の中の様子をちらりと一瞥する。

「もうアイリーンは出かけたんだろう?準備の手伝いも終わったくせに、何をさぼっている!さっさと来て書類の整理をしろ!」

 お父様が、私の腕を強くつかんで引っ張った。

 視界の端で、侍女が雑巾で床を拭いているのが見える。

「全くヴァイオレッタは根性が腐ってるな。社交界嫌いのお前の代わりに、アイリーンが舞踏会に出て、わざわざお前の婚約者を探してくれてると言うのに」

 確かに、私は社交界は好きではない。それは嘘ではないけれど……。

「お前は部屋でさぼりか。本当にろくでもない。私の子でないというのに、養ってやってるんだぞ」

 お父様が、屋根裏の小さな部屋に私を入れると、家令にたくさんの書類を運ばせた。

「お父様、私は」

 バシンと、強い力で頬を殴られた。

「お父様などと呼ぶな!この薄汚い茶色の髪、こんな髪の子が私の娘であるはずがない。私もお前の母親も金髪だった。いったい、お前は誰の子だ!お前の母親は私に隠れて浮気をしていたんだ!」

 ぐいっと髪を引っ張られる。痛みに顔をしかめながら、これだけは黙っていられなくて口を開く。

「違います、お母様は浮気などしてはいませんっ」

 産後しばらくして命を落としたというお母様。私を育ててくれた母の侍女だったマーサにある日見せられた母の遺書。


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