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第5話 地獄の魔法学園生活開始

 校長室を後にした俺は教室に向かって歩く。


 あれから、校長の提案を受け入れてから今後の生活について打ち合わせをした。魔法が使えない一般人であることを周囲に知られないためには練った設定が必要だった。


 そこで取り入れたのが魔法の天才という設定だ。


 すでに首席合格という話は知られている。今更これを無かったことには出来ない。ならば、今後の生活で少しでも有利にするためにそうなった。


 正直、ずっと混乱していた。文句は山ほどあるし、理不尽だと叫び出したい。


 それでも堪える。暴れたところで状況は好転しない。


 むしろアレだ、ここは前向きに考えよう。


 校長と担任は俺の味方だ。あちらとしても一般人を入学させた事実が上に知られたくない。全面的な協力を約束してくれた。


 校長は一学期を耐えれば考えがあると言っていた。今はそれを信じよう。


 卒業後も安泰だ。校長の話では魔法使いは引く手あまたというし、金持ちになれると保証してくれた。魔法が使えない奴に就職先があるのか気になるところではあるが、そこは相談するとしよう。


 とにかく、今の俺に出来るのは全力で魔法使いのフリをするだけだ。


 決意を胸に歩いていると、教室に到着した。


「おっ、中館が戻ってきたぞ」


 教室に足を踏み入れた瞬間、そんな声が聞こえた。


 結構な時間を要したので全員帰ったと思ったが、教室にはまだまだ多くの生徒が残っていた。


「どしたよ。先生に連行されてたけど、トラブルでもあったのか?」


 声を掛けてきたのは冬樹だ。


 すっかり忘れていた。魔法ばかりに気を取られていたが、もう一つ別の問題があったことを。


「おっ、なになに? 初日から呼び出しとか悪事でも働いたの?」


 夏美も追い打ちを掛けてきた。


 まずいな。冬樹と夏美の表情はどっちも揶揄うような笑みだ。こういう顔をしているこいつ等は非情に鬱陶しい。しつこく質問責めにされる未来しか見えない。


 どう対応するか迷っていると。


「ちょっと、中館君が困ってるでしょ!」


 春香が注意すると二人はシュンとなった。


 相変わらずだな。


 数年前までは当たり前のように見かけた光景だ。俺もどちらかといえば注意される側だった。


「二人がゴメンね」

「……別に」

「でも、ちょうど良かった。中館君もお喋りしない?」


 春香が笑顔で提案する。


「私達って魔法使いだから外の人と気軽に話せないでしょ。仲良くなって損はないし、親睦を深めていたの。首席の中館君に興味ある人は多いと思うんだけど、時間があるならどうかな?」


 冗談じゃない。


 あれだけ派手に裏切ってくれた奴等と親睦を深めるとかありえないだろ。


 今後の生活において最も警戒するのはこの四人だ。


 他のクラスメイトには一般人だとバレないように注意すればいいだけだが、こいつ等は別だ。俺が「外峯颯太」と知られたら終わりだ。


 何故なら俺が魔法使いではないと知っているから。


 中学二年生の健康診断ではまだあの中学に通っていた。校長の話では同じ学校に魔力持ちがいるならまとめて話をすると言っていた。


 確かに今の俺は以前とは別人だ。外見は大きく変わっているし、頭だって格段に良くなっている。気付かれる可能性は低いはずだ。


 だが、腐っても幼馴染だ。油断はできない。


 どうする?


 同じクラスで生活を共にする以上、最低限の接触は避けられない。ただ、特別こいつ等だけに塩対応もまずい。勘づかれる恐れはあるだろう。他のクラスメイト達と同じような扱いをしなければ危険だ。


 打開策は一つしかあるまい。


 そもそもこの高校生活は地獄だ。


 魔法使いの中に一般人は俺だけ。


 俺が見向きもされない立場なら問題ないが、学年首席の満点合格者だ。おまけにそれが周知されている。黙っていても注目される立場になる。


 鍛え上げられた脳がフル回転し、ある結論を導き出した。


「……はっ、冗談じゃねえぞ」

「えっ」


 吐き捨てるように言うと、春香が困惑した表情になった。


「仲良くするとか冗談じゃねえって言ったんだよ。気安く話しかけるな、この凡人共が。俺様は学年首席の特待生様だぞ。魔法初心者のおまえ等と違ってガキの頃から魔法を使いこなしてた天才なんだよ。ここは魔法を極める場所であって、ごっこ遊びの場所じゃねえんだ」


 どうせ地獄ならリスクを最小限に抑えるべきだ。


 秘密がバレる可能性が一番高いのは仲良くなることだ。長い時間行動を共にしていたら危険度は飛躍的に上がる。防ぐには仲良くならなければいい。


 だったら最初から味方など作らなければいい。


 傍若無人な俺様キャラにして誰も周囲に寄せ付けないようにする。元々魔法の天才という設定を使うわけだし、傲慢で才能に溺れた奴って感じにするのはいいアイデアだろう。


 唐突な俺の発言にクラスメイト達は驚きで固まっていた。


「おいおい、いくら何でもその言いぐさは酷くないか――」

「黙れ、このアホ面が」

「っ」

「気安く喋りかけるなと言っただろ。失せろっ」


 冬樹にそう言って自分の席から鞄を手に取った。


 唖然とする面々の中を堂々と歩き抜ける。その際に見かけた春香はショックを受けたのか俯き加減だった。中学時代と真逆の光景に少しだけ溜飲が下がった。


 扉の前に立ち、ゆっくりと振り返る。


「数日は様子を見ようと思ったが、無駄だと理解したぜ。こんな低レベルな連中が集まる場所だとはな。まあ、雑魚は雑魚同士で楽しく乳繰り合ってればいい。じゃあな」


 はははっ、と高笑いしながら教室を後にする。


 慣れない強い言葉を吐いた反動で吐きそうになったが、様々な感情をグッと呑みこみ大股で廊下を闊歩する。


 こうして幕を開けた。


 絶対に正体がバレてはいけない地獄の魔法学園生活が。

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