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第2話 魔力測定

 悪夢のような自己紹介が終わった。


 教室を大いに盛り上げた連中は後ろの席に集まってきた。その様子を見て、同姓同名でたまたま顔と声が似ていただけという願望は潰えた。


「マジで腐れ縁だよな、俺達。また全員同じクラスだぜ」

「ホントにね。まっ、今年もよろしくってことで」

「そうだね。今年もよろしくね」

「僕達の縁もここまで来ると恐ろしいよ」


 口々に四人が喋る。


 そう、俺達は昔からの腐れ縁だ。何故か小学生の頃からずっと同じクラスで一度も離れていない。偶然がこんなところまで続くとはな。


 クラスメイトの視線が背後の四人に集中する。


 美男美女が入学してすぐに談笑する姿はさぞ異質だろう。俺も事情を知らなかったら何事かと注目していた自信がある。


 向けられる視線に気付いたのか。


「ああ、俺達は幼馴染なんだ。地元が同じでさ」


 冬樹がそう説明する。


 クラスメイト達は驚きの声を上げた。そりゃそうだろう。美男美女が集まって幼馴染とか奇跡のような確率だ。


 教室中の注目が集まる中、どさくさに紛れて俺も振り返ってみた。


 その時、たまたまこっちを見ていた春香と目が合った。


「……」

「……」


 久しぶりの対面だ。


 一年半ぶりに見る春香は全体的に成長していた。光沢ある黒髪はあの頃よりも伸びており、顔立ちは中学時代よりも一回り大人っぽくなっていた。体のほうもグッと女性らしくなっている。


 まだ再会したくなかった。


 勝ち組になってから再会し、後悔させてやろうと考えていた。こんなところで再会するのは想定外だ。


 何を話すべきだ?


「えっと、中館君だよね。初めまして」


 初めまして?


 冗談かと思ったが、そうではないらしい。春香の顔を見るかぎり冗談とかではなく本気で初対面として接している様子だ。


 ハッと気付く。


 昔に比べて俺は随分と変わった。


 以前は「外峯そとみね」という苗字だったが、祖父母の養子になって苗字は「中館」に変化した。名前である颯太は珍しくない。実際、中学時代は颯太という名前の奴が俺以外にもいた。


 容姿も大きく変化している。


 中学時代、美男美女に育った幼馴染の中にあって俺だけが平凡だった。それでも見劣りしないように髪型やら服装に気を遣っていた。


 すべてを失って引っ越した後は容姿とか気にしなかった。


 今の風貌はあの頃とは全然違う。散髪代を浮かすために髪の毛は自分でカットしているためボサボサだ。勉強のしすぎで視力が低下したのでメガネを掛けるようになった。身長だって伸びたし、声変わりもしている。


 今の俺は昔とは似ても似つかない陰キャ野郎になっている。


 春香は俺の正体に気付いていない。


「あの、中館君?」

「……」


 声を無視して、正面を向く。


 幼馴染連中は誰も俺の正体に気付いていない様子だった。声を掛けてくるわけでもなく、後ろの席で談笑を始めた。


 会話の内容は寮暮らしについてだ。どうやら連中は寮で生活するらしい。家から通う俺には無縁なので調べなかったが、意外と利用者は多いのかもしれない。


 ……わざわざこっちに来ないで地元の学校に行けよ。


 心の中で悪態をついていたら、少しずつ冷静になってきた。そうなれば、当然の疑問が湧く。


 どうやって入学したんだ?


 背後で喋る連中がここに入学するのは学力的に不可能なはずだ。さすがに不可能は言い過ぎだが、かなり難しいだろう。


 頭の良かった春香と秋人は納得できるが、元悪友達に関しては無謀な挑戦といっても過言ではない。俺も人のことは言えない成績だったが、こいつ等も死ぬ気で努力したのだろうか。


 冷えた頭で教室を見回せば、クラスの連中もおかしい。


 名門であるこの学園に通う生徒は全員優秀なはずだ。


 それがどうだ。どう見ても頭の悪そうな奴がちらほらいる。軽薄そうなチャラ男だったり、化粧をばっちり決めたギャルだったり。外見で判断するわけではないが、さすがに違和感があった。


 謎の解明に頭を働かせていると、チャイムと共に先生が戻ってきた。


 手には小さな箱を持っていた。


「では、これより魔力測定を行う。まずは自分の魔力量がどれくらいか知っておく必要がある。また、魔力にはそれぞれ得意な属性がある。この測定では魔力量と得意属性がわかる。魔力が枯渇すると魔法が発動しないので魔力量の管理はとても重要だ」


 魔力測定?

 魔力量と属性?


「魔力に関してはそれぞれの中学で説明されたから知っているだろう。そう、君達は生まれながらに魔力を所持している魔法使いの卵だ」


 言葉に頷くクラスメイトと、唯一反応しない俺。


 説明とかされていない件について。


 ツッコミを入れるポイントか一瞬悩んだが、冗談を言っている雰囲気ではなかった。困惑しながら周囲の連中の反応を窺うが、どいつもこいつも当たり前の表情で話を聞いていた。


 箱から出てきたのは二十センチ程度の白い棒だった。


「では、呼ばれた者から前に」


 出席番号順のようで、一番の生徒が前に出た。


 白い棒を渡されたのはわかったが、そこからはよく見えなかった。先生が視線を切るように立ったからだ。


 測定ってことは、あの棒で何かするのか?


 まるっきり状況についていけない。挙手して質問すべきか迷ったが、誰も疑問に感じていないこの状況でそれを口にするのは何となくまずい気がした。


「次、北沢」


 時間は流れ、冬樹の順番がやってきた。


「ほう、これは中々」


 先生は興味深そうな声を上げる。


 その後、先生から何事かを言われた冬樹の表情はどこか満足気だ。昔から顔に出やすい奴だったので測定の結果が良かったのだろう。


 ……だからどういう状況だよ。


 名門校に似つかわしくない連中。

 何故か揃っている幼馴染達。

 魔力測定するとか真顔で言ってのける担任教師。


 意味がわからないと心の中で嘆いていたら、俺の順番がやってきた。


「次、中館」


 名前を呼ばれ、ふらふらと前に出る。


「そういえば、中館は特定生だったな」


 先生がクラス中に聞こえる声で言った。背後でクラスメイト達がざわつくのがわかった。


「我が校の特待生は入試での高得点が条件だ。その時点で高い魔力を所持しているのがわかる。今年の特待生は五人だが、満点を獲得したのは中館だけだ。毎年首席入学者は楽しませてくれる。期待しているぞ」


 新情報だ。俺は満点獲得の首席だったらしい。


 姫華学園の入試問題は恐ろしくレベルが高かった。満点の自信はなかったが、これは嬉しい情報だ。


 自信に繋がる称賛ではあったが、成績がいいから魔力が高いってのは意味不明だ。さっきから話に出ている「魔力」がラノベとかで登場するあのファンタジー的な意味の魔力なら受験とは一切関係ないはずだが。


 さっぱり状況に付いていけなかったが、俺だってこの学園に入学できたわけだ。よく知らないが、魔力とやらがあるんだろう。特に危険もなさそうだし、高校生活序盤から下手に反発して教師に睨まれるのは悪手だ。


「測定を開始する。この魔力棒を握ってくれ」

「はい」


 説明された通り、魔力棒を握る。


 その瞬間、先生の表情が固まった。


「……悪いが、もう少し強く握ってくれ」

「わかりました」


 言われるまま棒を握る。今度は何となく内なる力を解放するイメージで力を入れてみた。


 変化なし。


 先生の端整な顔立ちが歪み、訝し気に魔力棒を見つめている。


 ミスったか?


 いや、ミスのしようがないだろ。ただ棒を握ってるだけだ。他の奴等の測定を見ていても特別な動きはしていなかったはずだ。


 しばしの沈黙後。


「……授業が終わったら話がある。教室に残っているように」


 口調は怒っているようでもあり、焦っているようでもあった。妙な迫力に圧され、黙って頷いて席に戻った。


「次、西野」


 その後、何事もなく測定は続いていく。


 魔力云々はさっぱりわからないが、あの感じからして良い話ではなさそうだな。


「――ねえねえ、中館って学年首席なの?」


 いつの間にか戻ってきた夏美が後ろから声を掛けてきた。


 当然無視する。


「満点ってことは、あの薄っすらとしか見えなかった問題を解いたんだよね。あんなの見えるなんて魔力ありすぎでしょ」


 魔力とか知らねえよ。


 てか、問題が薄っすらとしか見えなかったのはやばいだろ。目が悪いならメガネを掛ければいいのに。


「で、魔力と属性はどんな感じだったの?」

「……」

「ちなみにあたしは火属性が得意だってさ。魔力量が多いって褒められちゃったよ。火属性ってのも当たりだよね。攻撃力が高い属性みたいだし、狙ってたんだよね。さっ、あたしが教えたんだから今度は中館の番だよ」


 相変わらずベラベラとよく喋る奴だ。


「無視すんなって。ほら、遠慮せず学年首席様の情報を教えなって――」 


 夏美の手が俺の肩に触れた瞬間だった。

 

「うむ、さすがは特待生だな!」


 先生が満足気な声を出した。


 測定していたのは春香だ。どうやら良い記録を出したらしい。というか、あいつも特待生だったのか。


 直後、背後から「ちっ」と舌打ちが聞こえた。


 舌打ちは無視をした俺に向けられたものだろうが、タイミング的には春香が褒められた直後だったのはちょっと気になった。


 まあ、春香と夏美は昔から仲良しだからありえないよな。


 今更こいつ等と仲良くする気もないので別に取り繕う必要もない。


 それからしばらくして全員の測定が終わった。


 あの舌打ちから夏美は話しかけてこなかった。やはり舌打ちは俺に向けてのものだったらしい。

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