エピローグ
「注意事項は以上だ。では、良い夏休みを」
一学期が終わった。
人生で最も長い三か月半であり、人生で最も疲れた三か月半でもあった。さらに付け加えるのなら人生で最も感情が動いた三か月半でもあった。
無事に乗り切った。
期末試験の結果は首位。魔法学と実技の両方で満点を獲得し、俺の一学期は終わった。正体がバレることもなかった。
ちなみにあの期末試験は非常に過酷で、半数近い生徒が放課後まで戻って来なかった。最終的に全員揃った時、全員がどうにも表現しにくい顔をしていたのが印象的だった。
……よし、行くか。
カバンを持って立ち上がる。
その時、秋人が近づいてきた。
「今から帰り?」
「……ああ」
「中館君にはお礼を言っても言い足りないよ。一学期はお世話になりっぱなしだったけど、二学期は僕も頑張るからね。またよろしくね」
秋人がそう言って手を振った。
親友に心の中で「おう、二学期もよろしく」と力強く答えながら。
「足を引っ張るなよ」
冷ややかに返す。
「おっ、帰りか。二学期が始まったらまた勝負しようぜ」
「次は絶対勝つからねっ」
悪友の冬樹と夏美が瞳をメラメラさせながら挑戦状を叩きつけてきた。
すっかりライバル的なポジションになっているらしい。
心の中では「今度は借りものじゃない魔法で戦いたいな」とか恰好いいセリフを吐きながら。
「フン、俺に勝てるわけないだろ」
自信満々に返しておいた。
そして、視線を隣に向ける。
長い黒髪を靡かせた美少女が俺を見つめている。その瞳にはいくつかの感情が入り混じっているようだった。
「次は絶対に勝つからね! 負けないからっ!」
春香が真っすぐに俺を見据える。
一学期の成績で俺はトップだった。その結果、春香は外峯颯太がどこにいるのかわからずじまいとなった。そのせいで随分と文句を言われたが、まあいいだろう。
春香達も地元に戻る。
久しぶりの家族との時間を過ごしつつ、行方知れずの外峯颯太を探すらしい。絶対に見つけらないわけだが、心の中でエールを送っておくとしよう
教室を出れば次に会うのは二学期だ。
本当は話をしたい気持ちをグッと堪え。
「……楽しみにしてる」
様々な感情を噛み砕いて答え、教室を後にした。
いつかすべてを話せる日が来るだろうか。
その時が来たら何を話そう。黙っていたことを謝罪したり、こうなった経緯の説明をしたり、今までの生活ぶりを話したり、きっとネタは尽きないだろう。
俺は帰宅せず、校長室に向かった。
「準備はいいかしら?」
「はい」
「夏休みの間、あなたが今後も魔法学園で過ごせるよう特別な修行をします。これをクリアすれば今後も学園で過ごせるわ。裏技みたいなものね。ただ、とても厳しいから覚悟しておいてね」
「大丈夫です。お願いします」
この学園で過ごすことになった時はどうなるかと思ったが、今は違う。必ずその修行をクリアして、学園に残ってみせる。
その時はあいつ等に正体を明かそう。
俺は頬を叩き、気合を入れた。
「いい顔つきね。最初の頃とは別人みたいよ」
変わった、か。
……人生で最も大切なものは?
その問いに対する答えは実のところまだ出ていないが、今なら「友達」という選択肢も十分ある。確かに変わったのかもしれない。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい」
胸にいくつかの感情を押し込め、俺は新しい一歩を踏み出した。
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