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絶対に正体がバレてはいけない魔法学園生活  作者: かわいさん


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第24話 期末試験 後編

 戦闘開始から数分。


 俺は身体強化を使用し、ひたすら走っていた。


 わざわざ戦う必要などない。要するに家まで無事にたどり着けばいい。ゴールさえわかっていればこっちのものだ。


 背後から春香が追ってくるが、距離は徐々に開いていく。恐らくその後ろにいるだろう三人の姿はすでに見えない。


「っ、ズルいよ、颯ちゃん!」

「まともに相手するはずねえだろ」


 背後から魔法が飛んでくるが、それを器用に避けつつ走る。コントロールが良くて何度か遠回りさせられたが、ようやく目的地が見えてきた。


 懐かしの生家。


 向こうの世界ではどうなっているのかわからないが、こちらでは立派な姿で残っていた。複雑な気持ちになるが、今は感傷に浸っている場合ではない。


 玄関の前に到達した。


 この扉を開ければ試験は終わりだ。


「そうはさせねえぜ!」


 影が視界の端に映ったと思ったら、不体に強い衝撃が走った。


 攻撃されて吹き飛ばされたと気付いたのは地面を転がっていた途中だった。態勢を整え、吹き飛ばした相手を見る。

 

「まっ、颯太なら勝負から逃げてここに来るよな」

「読みドンピシャ」


 先回りしていた冬樹と夏美が得意気な顔をする。


「おまえの行動くらい読めるぜ」

「そうそう、何年の付き合いだと思ってんの?」

「特に悪知恵働かせるときは妙に気が合ってたしな」

「同レベルの知能だしね」


 さすがは悪友だな。


 感心しながら立ち上がると、背後から魔法が飛来した。攻撃を慌てて回避すると、いつの間にか背後に秋人が立っていた。


「僕のことも忘れちゃ困るよ」


 動きが全部読まれているのはやりにくい。


「残念だったね。颯ちゃんの考えてることは何でもお見通しだよ。私達が颯ちゃんのことわからないはずないしね」


 追いついてきた春香が付け加える。


 遠回りしてしまった分、回り込まれていたようだ。追いかけてきてた春香が必死に見えていたのも全部演技だったらしい。


 戦うしかないか。


 雷を纏った盾を持った冬樹が玄関の前に陣取っている。あれをどうにかしない限りここからは出られない。


 ならば、各個撃破して突破しよう。


 素早く動いて春香を狙う。


「っ」


 だが、目の前にいるのは別人とわかっているのに俺の拳は春香に当たる前にぴたりと止まった。


「相変わらず優しいね、颯ちゃんは」


 氷の鞭が振られる。


 ぎりぎりで避けたが、腕にかすってしまった。痛みと共に腕が冷たくなっていく。


 近接には盾持ちがいて、中距離からは鞭の攻撃、そして後ろからはバンバンと魔法が飛ぶ。ゲームなら中々にバランスのいいパーティーじゃないか。


「ねっ、諦めてここで暮らそうよ」

「馬鹿言うな」

「どうして? ニセモノの世界でもいいでしょ」

「……生憎と俺は本物の世界で今日みたいな生活がしたいんだよ」


 今は不自由であいつ等にも嘘を吐いている生活だが、いつか今日みたいな日々を向こうでも過ごせるようにする。


 楽しすぎる時間を過ごしたせいで余計にそう思うようになった。


 その為に戦いが必要なら迷わない。


「悪いな。勝たせてもらうぞ」


 フェニックスを発動させた。


 ◇ 

 

「……」


 戦いが終わり、扉に手を掛ける。


「ねえ、颯ちゃん」


 ボロボロになって倒れている春香が声をかけてきた。

 

「何だ?」

「少しの間だったけど、楽しかったでしょ?」


 返答に詰まった。


「私は楽しかったよ。今の私がニセモノだとしても、凄い楽しかった。大好きな颯ちゃんと一緒にいる時間はやっぱり特別な時間だったよ」


 ここにいるのは本物の春香じゃない。それはわかっているのだが。


「ああ、俺も楽しかったよ」


 本心が口をついた。


「……向こうでもやり直せるかな?」

「当たり前だろ。俺達はまたやり直せる。全部終わったら、その時はまた馬鹿やろうぜ。秋人と、冬樹と夏美も一緒にさ」


 そう言うと、春香は大輪のひまわりみたいな笑顔で頷いた。

 

 視線を後ろに向けると、地面に倒れる三人が笑っていた。

 

「ちくしょう。負けちまったぜ」

「女の子相手なんだから手加減しなさいよね、まったく」

「はははっ、颯太らしいけどね」


 俺らしいってどういうことだよ。


「まっ、ケンカの続きは向こうでやろうぜ。またな、相棒」

「あっちでもよろしくね」

「じゃあね、颯太」


 名残惜しさはある。


 正直、ここにずっといたい。


 ここにある光景こそ俺が憧れていたものであり、失った未来だ。それでも俺は夢の世界に逃げるわけにはいかない。


「おう、またな」


 玄関を開けると、体が白い光に包まれていく。

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